「あっっちいなおい」
今日もぶらぶらと歌舞伎町を練り歩く男坂田銀時。
春も終わりそろそろ夏になろうかとゆう季節。じりじりと暑くはないが歩けばうっすらと汗をかく。
「お」
と向こうから見慣れた眼鏡とその姉が歩いてきた。ただいつもと少し違うことは姉の方がなんだか見慣れない格好をしていることだ。「よぉ」
声をかけると向こうも気づいた。
「あ、銀さん」
眼鏡、もとい志村新八が返事をするがなんだか妙な雰囲気だ。
「何お前もっとテンションあげろや。でお前はなんなのその格好?」
志村妙の方を向き尋ねる。
彼女はいつもの着物ではなく小綺麗で上品な そうまるで
「見合いでも行くのか〜?」
へらへらと笑いながらからかうように言ったつもりだった。
「はい。」
………………………
「はい? え? 何?」
「だから、そうですってば。」
ちゃんと聞いてろとでもいいたげな目で軽く睨む彼女。
「…そうですっておいおいつくならもっとばれねぇ嘘をバキッ
全て言い終わる前にいつものように殴られた。地面に倒れたまま新八を見るといまにも泣きそうな顔をしていた。
「まじなの?」
「まじですよ」
それだけ言うと新八は大きくため息をついた。
「……あ、そう。…へぇー」
「あんた姉上がお見合いだってのに1へえ?もっと言うことあるでしょ-が」
「なにがあんだよ別になんもねぇよ1へえだよ」
「あら私のお見合いは1へえ程の価値ってことですか?」
いつもの笑顔で拳を握る彼女を見て銀時は慌てて訂正した。
「いやいやいや!!滅相もないですお妙様!1へえどころか価値がでかすぎて数字でなんて表せません!」
「うふふ、そうですか」
(うふふじゃねぇよ)
拳がしまわれたのを見て小さくため息をもらした。
「で、お前は母親役で付いてくってことか」
よっこいせと起き上がりながら新八に言った。
「僕は…そうしようと思ってたんですけど…姉上がついてこなくていいって」
「だってほんとにいいんですもの。大体新ちゃんにお見合い見られるってゆうのも少し恥ずかしいじゃない」
そう言いながら妙ははにかんだ。
「なんにしろよかったじゃねえか。これでようやく貰い手ができるな。」
先程意表をつかれ、珍しく心底驚いたのを隠すようにまたいつもの下品な顔でからかう。
「あ、でもまだ貰ってもらえるかわかんねえな…大体こんな本性ゴリラの女なんて  ドゴッ  
「どうゆう意味だこら」
「すすすいません!嘘!嘘です!僕が貰いたいぐらいだなあ!あはは!」
そう言った瞬間、銀時は妙が妙ではないような見たこともない顔をしたように見えた。
だが瞬きを一つした時にはもういつもの笑顔だった。
(なんだ今の?見間違い?)
もしかしたら新八も見ていたのではと思い銀時は彼の方を向いたが、ものすごく心配そうな顔をして相手はどんな人だろうとかいい人かなとかぶつぶつ言いながら目をきょろきょろ忙しなく動かしていてこちらの様子には気付いていないようだった。
「じゃあ新ちゃん、もう行くわね」
今起きたことがよくわからなくてぼーっとしていたらいつのまにか妙はもう店に入るところだった。
「あ 姉上、本当に大丈夫ですか?もし悪い人だったりしたら…」
「新ちゃんたら心配しすぎよ。大丈夫」
そう新八に言い聞かせ優しく微笑む彼女を見てやっぱりさっきのは見間違いだったのかもしれないと銀時は思った。
「じゃあ銀さん。新ちゃんこんな状態だと心配だからよろしくお願いしますね」「あ?あぁ……おう」
そうして妙は少し高級そうなレストランに入っていった。



「…銀さん」
「あー?」
「姉上あの人と結婚するんでしょうか」
とりあえず万事屋に帰ることにした2人は帰路につきながらぽつぽつと話していた。
「知らねえよそんなん。あいつが決めることだろ」
「はぁー。もしほんとに悪い人とかだったらどうしよう…」
「んなもんおめぇの姉貴だったら見極めるだろ」
「そうだといいんですけど…姉上ああみえて好きになったら夢中になっちゃうからな…」
「そんな乙女チックにゃあ見えねえがな」
妙も一応今までに恋はしてきたのかと内心驚きながらも銀時は答えた。
「銀さんは知らないんですよ」
横にいる銀時をじろりと睨みながらまた盛大にため息をついた。
「周りがどうこう言うこっちゃねぇよ。あいつももうわかってるだろ」
2人していつだったかの、妙と九兵衛の結婚騒動を思い出した。
「…そうですよね」
それからはどちらも何も話さずにただ歩いていった。


それから数日後、またいつものように仕事の依頼がなく街をぶらぶらしていた銀時は大江戸スーパーの袋を両手に提げた妙と出くわした。
「あら銀さん、こんにちは」
「おー」
先日のお見合いを断ったことを新八が話していたのを思い出す。
「お前こないだの見合い断ったんだって?」
銀時がへらっと笑いながら言うとたちまち妙は顔をしかめた。
「いきなり女性にそんなことを聞くなんてデリカシーのない人ですね」
そう言いながらさっさと歩いていってしまう妙に特に行くところもないのでついていくことにした。
「馬鹿だねーお前。もう二度とこねえよ?こんなチャンス。自分から逃してどうすんだよ」
妙の言葉に耳もかさず喋りつづける。
「それはどうゆう意味かしら?」
顔は笑っているが額に青筋が浮かんだのを見て、銀時は引き攣った笑いになった。
「いや…なんでもないです」
「それにいいんですお見合いのことは」
何がいいのかわからずに黙っていると
「最初からお断りするつもりでしたから」
と少しばつが悪そうに妙は言った。
「はあ?なんだよそれお前まじで悪女「黙れ」
言い終わらないうちに髪をわしづかみにされた。
「いでででで!やばい抜ける!ちょまじで髪は勘弁してごめんなさい!」
そういうと妙は満足したようにぱっと手を離した。
「親戚のおばさんが見合いしろってしつこかったんです」
相手の方には悪いことをしてしまったわ、と心底反省しているような顔をしてため息をついた。
「親戚付き合いも楽じゃねえな」
そう言いながらなんだかそんなつながりも少し羨ましいと銀時は思った。
「…それに、私まだ結婚とかはいいんです」
「あ?」
「家に帰ったら新ちゃんがいて、たまに神楽ちゃんと銀さんも遊びに来てたりして、4人で鍋を囲んだり真撰組の方も混ざって大勢でお花見したり」
くすくすと笑いながら本当に楽しそうに話す妙を見ながら銀時はこいつ黙ってりゃいい女なんだけどなと心の隅でこっそり思った。
「ふーん」
「…新ちゃんも言ってましたよ」
「何が?」
「銀さんと神楽ちゃんはもう家族だって」
「………」
…参った。先程ほんの少し羨ましがったことを見抜かれたんだろう。この女には本心を隠せない。
「あんなでけー子供いらねえよ」
頭をぼりぼりかきながら悪態をついて少しでも隠そうとしたがそれが無駄な悪あがきなのを銀時はわかっていた。
「私も新ちゃんと同じですから」
「は?」
いつの間にか妙の家に着いていて、門の前で立ち止まり振り返った妙の顔を見て銀時は一瞬息が止まった。
あの時と同じで妙が見たこともない顔をしているのだ。しかしあの時と全く同じではなく今回はとても幸せそうな、というより相手を愛おしむような微笑みを浮かべているのだ。
「私も新ちゃんと同じです。それじゃまた。ちゃんと仕事してくださいね」
先程と同じ言葉を繰り返し、最後に嫌味を鋭く言うと門の向こう側に消えていった。
妙が家に入る音がしても銀時はその場から動かず考えていた。
(こないだのも、見間違いじゃねえなこりゃ)
ただ彼女自身今まで人に見せたこともないような表情をしたことはわかっていない。普通に微笑んだつもりだからだ。
「家族ね……」
そう呟きながらまたぼりぼりと頭をかきようやく足を動かし、万事屋へ向かう。
銀時はいつの間にかできていたこの繋がりが素直に嬉しいと思った。(決して表には出さないが)
しかしその感情に隠れたもう一つの感情にまだ彼は気づいていない。
妙がほんの一瞬見せたあの表情に心の奥の奥が一瞬だけざわめいた。自身で認識できないほど瞬間的なものだったがたしかに心がざわついたのだ。


彼女はこの男にしかあんな表情を見せない。

彼はそんなあの女の表情に心がふるえた。




 
 
誰にも気付かれないほんの少しの恋心。












1mmの恋心




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