捧げ物 | ナノ


▼ 女心と春の空 (11/13)

――金属が薬品に触れると反応起こしちゃうから、仕事中は外してるの。

名前はオレの視線が向いているのに気づくと、ばつが悪そうに何もはめられていない手を隠しながらそう言った。
だがそれは、オレを傷つけないためについた、下手な嘘だ。
親父は危なっかしい名前にはあらかじめ粉になっている薬品しか扱わせていないし、固体で安定している物質が反応する多くは液体、金属に触れても問題はないはずだった。

「今、持ってんのか?」

オレが問うと、名前は手裏剣ホルダーに手を伸ばす。
医療に携わるようになってから、そこには包帯や消毒液が入れられていた。
それらに混じり冷たくなっていた指輪が、名前の掌にのせられしばらくぶりに外の空気にあたる。

オレは一旦団子を戻すとそれを受け取り、ベストの胸ポケットから同色の鎖を取り出した。
それに指輪をくぐらせ、名前の後ろに回り込む。
ピアス以外の貴金属の扱いは慣れていなかったが、何とか留め金を留められた。

「はいよ、出来上がり」

「どうしたの、急に」

名前はオレの行動が解せないのか、そう尋ねた。

「どうって、誕生日プレゼントだろうが」

「……あっ」

直接的な言葉で、名前はようやく思い出したようだった。
とっさに名前はオレを振り返り、何か言おうと、必死に口を開こうとする。
オレはその顔を強制的に戻して、オレ自身も名前の隣に戻る。

「お前は本当、自分の事そっちのけで人の心配ばっかするよな。いのやサクラが心配で、自分の誕生日も忘れるとは。先輩たちだって名前より先に思い出してたぜ」

「ああ、それで!」

ようやくコテツ先輩の去り際の言葉の意味が分かったらしい。
名前は声を張り上げオレに向き直った。
勢いで近づいた額を、指で弾く。

「ったくお前も変なとこで意地張るよな。小指以外にはめるのは邪道だとか、でもオレにそれを話すのも酷だとか……」

名前が指輪をはめない理由は、既に把握していた。

男のオレは知らなかったが、世間には小指にはめるための指輪があるらしい。
一年前オレが贈ったのは、そのピンキーリングだった。
それを渡して、好きな指にはめとけも何もない。

名前はその指輪を小指にはめオレをがっかりさせるか、左手の薬指にはめ恥をかくか、この一年散々迷ったんだろう。
しかしオレが初めて一人で選んだプレゼントとあれば、放置する訳にもいかない。

誰も傷つかないようにするには、どうするべきか。
そう考え導き出した苦肉の策が、オレと二人きりの時だけ左手の薬指にそれをはめるというものだった。
しかしその習慣も定着せず、その時の言い訳のために、仕事を持ち出す。

「遠慮すんなよ。気ィ遣い合うためだけに付き合ってるんじゃねーんだ」

名前はまた、ばつの悪そうな顔をした。

「でも何で分かったの? 私、別に誰にも話してないのに」

「いのだよ」

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