捧げ物 | ナノ


▼ 女心と春の空 (8/13)

春だ春だと思ってはいても、まだ冬の名残で急に冷え込む日のある今、夕暮れから暗くなるまでは早い。
オレが着く頃には商店街から主婦や子供たちが消えた代わりに、任務後に一杯やろうと忍服姿のままの中忍や上忍が溢れ返っていた。
名前はその人込みの中、道行く人の邪魔にならないようにと閉店後で明かりの消えた団子屋にもたれかかっている。
腕にはしっかりと袋に入れられた包みがあり、ほっとした。

名前、そう呼びかけて近づこうとした時、

「あ、名前ちゃんじゃないか」

それよりも早く話しかける人がいて、名前はそちらを向いた。
イズモ先輩とコテツ先輩だった。

「この間もらった塗り薬、効き目すごかったよ。隊の中でも評判上々」

「そうでしたか」

お役に立てて嬉しいです、と名前が言うと、相手は気をよくした。

「今からお礼がしたいんだけど、時間空いてる?」

「って言っても、名前ちゃんは未成年だからお酒は飲ませられないし、軽い食事になっちゃうけど」

「すみません、今待ち合わせてるんで、またの機会に……」

「なに、シカマル? シカマルとの約束なら、また今度にしなよ」

「そうそう、明日会ったら、オレらから謝っとくから。さ、行こ行こ」

やんわり断る名前を押し切ろうと、コテツ先輩が名前の肩に手を置こうとした瞬間。
名前の左手が、それを振り払った。

「名前ちゃん……?」

「え、あの、何か、すみませんっ」

予想外に強く拒絶された事に驚くコテツ先輩。
名前も自分のとっさの行動に慌てふためき、平謝りに徹し始めた。

そんな二人の隣にいたイズモ先輩が、ひとまず名前が左手を離した拍子に落としてしまった袋を拾おうと屈み込み、足元の異変に気がついた。
そして影を追ってオレを見つけると、笑って手招きする。

「何だ、影真似だったのか」

「何だじゃないですよ。こんな人の往来の多いとこで、後輩の女口説くのやめてくれないっスか?」

「お、妬いたか? なんならシカマルも一緒に連れて行ってやるよ。なあ、イズモ」

「生憎ですけど、今日名前を独占する権利があるのは、オレだけなんで」

その言葉ですぐにピンときた二人は、付き合い悪いなと文句をたれながらも、あっさり解放してくれた。
そしてそのまま近くにある酒場に入ろうと持ち掛けたコテツ先輩に、応じるイズモ先輩。
二人は暖簾を持ち上げ店に入りかけ、その直前でコテツ先輩が一度振り返った。

「でもそっか、ちょうど一年前だったもんなー。お前が取り乱してたのは!」

したり顔の先輩たちの姿が見えなくなってから舌打ちすると、意味の分かっていない名前は首を傾げた。

- 9 -

prev / next


back

[ back to top ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -