捧げ物 | ナノ


▼ 女心と春の空 (7/13)

家に着くと、玄関に両手の荷物を置いた。
無造作に置いたせいか、何本かは自立できず、床に倒れる。
静かな玄関にその音が響いた。

負荷がなくなると、苛立ちも軽減する。
そして冷静になった分、やるせなさが沸き上がってきた。


どうしてオレは、いつも上手く立ち回れないんだ。


やれいのだやれサクラだと、オレに構ってくれない名前に腹を立てているんじゃない。
絶対にどこか不完全な計画で、よけいな手間をかけさせる名前に腹を立てているんじゃない。
むしろ名前は上手くやっている。
明日をみんなに楽しんでもらおうと、よくやっている。


そう“みんな”のために――


そのためなら名前は、“自分”の事は二の次にする。
そんな名前がもどかしかった。

最近、気づいた事がある。
アカデミーの頃から名前はオレと同じ面倒臭がりだと思っていたが、それは違った。
確かにあいつは自分の事では動かない。
だが例えば、誰かが友達と喧嘩して、一人で授業を受けるような事があれば、必ず傍にいてやった。
悲しそうな顔をする奴がいないか、いつも気にかけていた。
名前はそういう奴だ。
そしてアイツがオレの隣にいたのも、そのためだ。

来る者拒まず去る者追わず。

オレは名前に対してそんな態度をとっていたから、女子同士でいるよりも、何かあった時に動きやすかったんだろう。

「本当、今の職業、向いてるよな」

傷ついている人は放っておけない。
そんな名前の性分が遺憾無く発揮されていると、親父も言っていた。
ただ少し人より飲み込みが遅いのが悩みの種だとも漏らしていたが。

しかしその不足を補って余りあるほどの真面目さ。
そして人より時間はかかるが、一度覚えた事は完璧にやり遂げる。
自慢の弟子なんだろうか、親父はそう誇らしそうに話しながらも、最後には一言こうつけ加えるのを忘れなかった。
でも必ずどこか抜けていて、薬品の分量は間違えないが、その作業に熱中するあまり、調合する数を間違えると。
そんなところがまた名前らしいと、親子で笑ったのはいつの事だったか。


「……よし、行くか」


気持ちを切り替えた。
そろそろ名前を迎えに行かなければ、待たせてしまう。

荷物は玄関に置きっぱなしにしておいた。
それを知ったら名前は顔をしかめるだろうが、どうせ全部飲料水だ。
すぐに冷やさなくても傷みはしない。

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