捧げ物 | ナノ


▼ 女心と春の空 (6/13)

初めに気づいたのは名前だった。
あ、とあげられた声に、名前の視線をたどれば、オレたちが向かおうとしていた通りの先に、アスマと紅先生が見えた。
こちらに気づいているのか、二人は近い距離に寄り添いながら、あたかも他人を装うように不自然に目を背けている。

「道、変えようぜ」

提案するまでもなく、名前は既に横道に逸れて歩き出していた。

今日が沈み、来たるべき明日のために、休息の時間が近づいてくる――

さらに傾いた日に、里は表情を変えた。
普段通り歩きなれない道は、暗がりに紛れ一層歩く者を拒んでいるようだった。
それでも名前の行くまま、しばらく前進を続ける。
すると、再び名前が、あ、と声をあげて立ち止まった。
しかし今度は特に誰も見当たらない。

「どうした?」

「忘れてた」

「何を?」

「明日、アンコさんも来るかもしれないんだった」

言うが否や、体を反転させ、元来た道を小走りに進もうとする。
慌てて進路を塞ぎ、その足を止めさせる。

「ちょい待て、それはいのたちが買うから平気だろ?」

「二人に頼んだのは食材だけだから。まさか二人も朝からお団子作る事想定で材料買ったりしないよ」

アンコさんといえば団子。
年がら年中団子を食すあの人が、よりによって花見に団子がないと知ったらどうなるだろうか。
それにあれは見るからに花より団子派だ。
せっかくの花見、あの面倒臭さい絡まれ方をされたら、たまったもんじゃない。
だが、

「この時間だと、団子屋なんてどこも、もう閉め始めてんじゃ……」

「だから急いでるの!」

今すぐそこを退け、と言わんばかりの迫力だった。
言い出したらきかない名前。
こうなったら止めるのは難しい。
この荷物のままこれ以上買い物に付き合うのもきついが、かと言って今日このまま名前と別れる気もない。

「わーったよ、よし、こうしょう。
とりあえず、団子買ったら名前はその場で待機。オレは家にこれ置いたら、すぐに向かう。もう暗くなったし、家まで送るから」

「え、いいよ。重い荷物はシカマルが持ってくれたから、平気だよ」

「そういう問題じゃねぇだろ」

「でも、本当にいいから」

「そういう問題じゃねぇって!」

名前は一瞬、びくりと体を震わせる。
平行線になりそうなやり取りに焦れ、かぶせるように放った言葉は、自分が思ったよりも言葉尻に力が入っていた。

「……ともかく、待っとけよ。いいな?」

名前が微かに頷く。
それを合図に、オレと名前は別の方角へ走った。

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