捧げ物 | ナノ


▼ かくれんぼの続き (8/10)

風影様は手をかざした。
その手を、紅の世界が染め上げていく。
過去を彷彿とさせるようなその行為は、自身への戒めでもあるのだろうか。
風影様より先に私が目を逸らした。

「それは里が……私たちがあなたを追い詰めたからです」

「いいや違う。この広い世界には、どんな困難にも真っ正面から立ち向かう強い奴がいる。それが出来なかったのはオレの弱さが原因だ」

「例えそうだとしても、私たちさえ強ければ、あなたをあんなに傷つける事もなかった」

「それにしてもだ。オレはこの手を血に染めすぎた。それは決して許される事ではない」

「でも」「だが」

二つの逆接が、重なった。
私ははっとして口をつぐんだが、彼は一瞬間をおき、その間が計算づくだと思わせるほど自然に、続きの言葉を紡ぎ出した。

「だがオレは、許されたいと願っている」

我愛羅様の手が、私の手を取る。

「……許されたいならば、許す事から始めるべきだ。違うか?」

そっと促されるままに私は立ち上がった。
あの日私に怯え身を縮めていた少年はひどく小さく感じられたけれど、今私の手を掴みそこに立っている青年はとてもたくましかった。

「それにあの約束、今からでも遅くない」

そして私の涙を拭うその手は、誰かを守るためにある。
相変わらずぎこちない笑顔だったけれど、彼の仕種にはそう思わせてくれる優しさがあった。




砂上の楼閣は崩れ去る――




私が長年積み上げてきた罪悪感という名の砂の城は、そのまま私たちの深い溝を埋める役割を果たしてくれた。
無論それを壊したのは我愛羅だ。
砂を操る彼の前で私に抗う術はない。
いや、そもそも抗う必要もなかったのだと気づいている。

そしてまた、新たな城が築かれる。

我愛羅と私が作り上げたそれは、砂をただ寄せ集めるしか能のない子供の拙い作品のようだった。
砂場の中央にそびえ立つ巨大な砂山――そう思われても仕方のないほど城と呼ぶには程遠く、簡素な砂の里の建築物よりさらに簡素だった。
それでも土台だけはしっかりしていた。
私にはどんな城よりも強固に見えた。

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