捧げ物 | ナノ


▼ かくれんぼの続き (7/10)

本当はずっと昔から分かっていた。
我愛羅は好んで人を傷つけるような人ではないと。
まだ幼かった彼は恐れていただけだった。
里から忌まれた自分という存在が、果たして受け入れられるのか……

不安気に服の袖を握りしめるその小さい手は、誰かを握り潰すためでなく、誰かと繋いでみたいのだと、私は知っていた。
そう思わせるだけ、遊んでいる私たちを見て彼が呑んだ溜め息の数は多かった。
だから私は彼に手を差し延べた。

『一緒に遊ぼうよ』

かくれんぼをしている時だった。
ジャンケンで負けて鬼になった私は、息を潜め隠れる友達から離れ、真っ先に彼の元へ向かった。
なかなか一歩を踏み出せない彼を後押しつもりだったが、彼は初めて向けられた好意に戸惑っているようだった。
私と私の手を交互に見やっては、隠れている友達を気にするように私の背後にも視線を巡らせた。

『みんなからここは見えない、でしょ?』

『……どうして分かるの?』

『分かんない。でも分かるの。我愛羅がいつも見てた事も、分かってるの』

ずいとさらに手を伸ばすと、その分だけ彼は後ずさりした。
友達から恐れられているこの子は、今だけは私を恐れている。
自分が優位に立ったと感じた瞬間、少しだけ残っていた恐怖が完全に消え、私は気を大きくした。

『大丈夫、私がみんなに紹介する』

笑って彼の手を掴もうとした。
しかし彼はうつむいたまま首を振って拒否した。
強情だった。
簡単には心を開けないほど、冷たい待遇を受けてきたのだろう。
それでもそんな事を知らない私は、思い通りにならない彼の態度にすっかり辟易していた。
そんな時、心配した友達が持ち場を離れ動き出す気配がしたので、私は慌ててかくれんぼに戻ろうとした。
それを察しホッとした彼に向かって、最後に一言、こう言ったのだ。

『遊びたくなったらいつでも言って。私、待ってるからね』

彼の笑顔を見たのはそれが最初だった。
それは生まれて初めて笑ったのではと思うほど、ぎこちなかった。
それでも私は満足だった。
我愛羅は私が守ろうと、そう決めた。

そう決めた、はずだった。

「でも、私は裏切ったんだ。あの時、あなたの手を、掴もうとしなかった。私から約束したのに……」

我愛羅が狂ったのはあの後すぐだった。
殺気立った彼は、私でなくとも気配を感じ取れた。
そして彼の周りから人は消え、彼はますます孤立していった。
そこに追いやったのは、私だ。

「そんな私を、どうして受け入れられるっていうんですかっ。あなたは私を分かっていない。私はまたあなたを裏切るかもしれない。もし逆の立場だったら、私はあなたを許せない!」

言っているうち込み上げるものがあった。
この何十倍も、彼は苦しんでいたはずだ。
それに気づきながら私は目を逸らしてきたんだ。

悔しさで周りの風景がにじみ、夕陽のオレンジが視界いっぱいに広がった。
その中でも映える赤色が近づき、隣で膝をつくのが分かった。
それを目の端で見ていた私は、次の瞬間、ぎょっとして身を引いた。
彼が、この私に、手を差し出したのだ。

「オレはこの手で――」

「え?」

「この手で、今まで数え切れないほどの人を殺めてきた。それこそ何の関係もない一般人までな」

- 21 -

prev / next


back

[ back to top ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -