▼ かくれんぼの続き (5/10)
風影様はクナイを抜き取ると、自身の手の内でまじまじとそれを見つめていた。
自分を傷つけようとした物の正体を見極めるかのようだった。
やがてそれにも興味を失ったのか、視線が揺らぎ、今度は傷つけようとした者をじっと見据える。
私は咄嗟にひざまずいた。
「とんだご無礼……どうかお許しを」
「責め立てるつもりはない」
感情の読めない声音だった。
忍の鑑だ。
「話があって来た」
降り立つ気配。
視界の隅に風影様の足元が見え、私はますます深く頭を下げる。
「暗部入隊の件、もう一度考え直してはくれないか」
「申し訳ありません」
「何故だ」
「理由は先程も申し上げましたが、私には決定的に戦闘経験が足りません。暗殺術など以っての外です。
私としましては、暗部入隊の話が持ち上がった事自体疑問でなりません。他の忍と間違えたのではと――」
「間違えなどではない」
私の言葉を遮る力強さに、思わず顔を上げてしまった。
揺らぎない視線とかち合う。
「推薦したのは、このオレだ」
ああ、そうか。
ありえない返答に困惑する中、それでも一つだけ納得出来る要素があった。
風影室で暗部相手にバキさんたちが必死に反論していたのは、これが理由だったのだ。
風影様の推薦とあらば擁立しない訳にはいかない。
しかし、何故。
何故風影様は私を推した?
素直に疑問を口にしてもいいものかも分からない。
それほど私と風影様は身分が違い過ぎる。
このように対面している事すら恐れ多いというのに……
躊躇いから口をつぐんでいると、風影様は続けた。
「実力も認めている。暗部が素通りしていく中、お前だけがオレに気づいた」
「しかし攻撃は外しました。里の忍の精鋭を集めた暗部に、肝心なところでしくじる私をおくのはどうかと」
「その精鋭の暗部の、」
風影様はそこで語調を強めた。
「気配が分かる奴はそういない」
民家の向こうで、空気が張り詰める。
風影様の姿を確認した暗部たちがそこで待機していたのだ。
――確かに私のこれは特技だ。
大抵の人の気配なら意識しなくても手に取るように分かる。
暗部クラスの忍でも人数を把握するくらいは簡単で、攻撃される事を気にせず集中すれば、そこからさらにその人の特徴を感じ取り、個々を認識出来る。
他の人がそれを出来ないと知ったのはまだ下忍になる前。
私が“友達”だと何の疑いもなく信じていたその人たちと、遊びに明け暮れていた頃だ。
今ほど敏感でなかったあの頃でさえ、人の気配を捜すのだけは誰よりも得意だった。
それは呼吸するのと同じくらい自然に。
あらゆる音を聞き分け、風の流れの変化を肌で感じ、何処に人がいるのかを知る事が出来た。
かくれんぼはいつも私の一人勝ちだった。
「オレはお前に、人を殺させたいんじゃない」
風影様は言う。
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