捧げ物 | ナノ


▼ かくれんぼの続き (4/10)

何かおかしいと感じたのは、それからすぐ後だった。

少しの間、見張るようにして物陰から様子を窺っていた気配が、ふっと遠ざかった。
捜していたのは私ではないらしい。
公園にいるのが呑気にブランコを漕いでいる私だけだと分かると、後から来るどの気配も、来たそばから消えていく。

忍具を握る手の力の強さに、面から漏れる息の違い。
木に降り立つ時に揺れる枝の幅からはおおよその体格が分かる。
注意してみると、特に他との違いが分かる特徴的な者だけで、十人弱。
相変わらず里は平和の象徴のように静かだが、暗部の動員数は厳重警戒体制が敷かれていても不思議でないと思わせる数だ。

その後もいくつかの気配が忙しなく駆け巡っていたが、いずれも目的を達成出来ないらしく、里の中を行ったり来たりしていた。
まるで誰かを捜しているかのように――


不意に感じた、背後からの視線。

誰かが私をじっと見ている。


あまりに微動だにしないものだから、今の今まで気づかなかった。
気配の消し方の上手さは風影ランク。
暗部が捜しているのはこの人だと、直感的に分かった。
見つけられないのも無理はない。
これほどの至近距離でも、殺気は欠片も感じられなかった。

他国からの侵略者か。
それとも脱獄者か。
いずれにしてもやり手なのは、里の状況に私の推測を加味したところまず間違いないだろう。

多くの気配が絶えず行き交っている中、この気配だけは、動かない。

私は立ち漕ぎに切り替え、勢いをつけて漕ぎ出した。
一瞬空に近づき、それから重力に戻され後ろに引かれ、地面から遠ざかり、また急降下。
次に空が見えた時、迷わず座椅子部分を蹴り出し、宙に浮いた体を反転させて後方へ向かってクナイを投げつけた。

「誰だ」

着地と共に問い掛ける。
ブランコに大きな陰を落としていた木の幹、投げたクナイはそこに深く食い込んでいた。

風が通り抜け葉がざわめく。
乗客を失ったブランコは、それでも規則的に揺れていた。
しかしそれ以外に音は無く、そこに誰かがいた事を物語るものは何もない。

いや、でもいる。
確かにそこに、誰かがいる。

「そこにいるのは分かっている。大人しく出てこい」

多数の暗部から逃げおおせ、自分の放ったクナイを避けた者が、確かにそこにいる。

確信に満ちた目で睨みつけるようにしていると、ちらりと見えた衣の一部。
さらに目を細めて警戒を強める。

自分が中忍に成り立てだからと、尻込みする気はなかった。
どんな敵でも、砂の忍として全力で立ち向かう心積もりでいた。
しかしそれでも我が目を疑った。


木の影からそっと姿を現したのは――


赤い髪に、目の回りの隈。
背中の瓢箪に、額には“愛”の字。

それは見間違えようもない。



「風影様……!?」



私の驚きの声には反応せず、相変わらずの無表情で、その人は自分の後ろを振り返った。
そこにはクナイが一つ。

私はとんでもない事をしでかしてしまった事を思い出した。

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