▼ 春の悪戯 (6/6)
あれから月日は巡り――
私はいのと敵対し、大切な仲間に出会い、そして失った。
なんの取り柄もない私は、泣きつくこと以外でサスケ君を止められるとは思えなかった。
夜道を見張ることが精一杯だって、そう思っていた。
だけど違う。
今はそう思わない。
だっていのは教えてくれたから。
私は出来ないと思ったことの倍以上を、本当は出来るんだって。
そう思っていたって終始上手くいくわけじゃないけど。
でも、落ち込む私を、春になるたびいのとの思い出が励ましてくれる。
サクラは出来る、自信持って、と。
「いの、覚えてる? あの桜の木」
「わ、懐かしい。アカデミー生のときよく遊びにいってたっけ。最近任務続きで久々に季節を感じるわねー」
四月の始めのその日、修業帰りにたまたま会ったいのと、並んで歩いた。
今もライバル同士なのは変わりないけど、取り合うサスケ君がいなくなってからは何となく昔と同じ距離でいのの傍にいられるようになった。
でもいのの後を追っていたばかりのあのときとは違う。
対等に、肩を並べて歩いている。
だけど今日ばかりはいのの前を歩き――あの公園に連れていった。
「あの桜の木に初めてのぼった日、私いのに嘘つかれたのよね」
「おあいにくさま、あの日はエイプリルフールだったの。残念ね、引っかかった間抜けを笑えるステキな日だったのよ」
時間をさかのぼった的外れないの言い訳に笑い、
「違う違う、そういうこと言いたかったんじゃなくてさ」
そこまで言うと私は振り返った。
思い出の中のいのと今のいのが重なる。
だけど笑顔なのは、私の方。
「いの、ありがとう」
唐突な感謝に、いのは驚いた。
半開きにされたまま動かないその口は、なにかを言おうとしていたのか。
かまわず私は続ける。
「私、いのに会えてよかった」
「っなによ、いきなり! そんなの私だって、」
「ねえ、いの――」
お願いだから、今度は私に言わせて欲しい。
ねえ、いの。
私はあのときのこと、忘れないよ。
どんな上辺だけの大丈夫よりも、
いのがくれた嘘が、私を強くした。
医療忍術も使いこなせたわけじゃないし、今はまだ、私はつぼみかもしれない。
それでもいつかきれいな花を咲かせる。
名前に恥じないくらい、きれいな花を――
「――今日は四月の、何日?」
今日は四月一日。
冗談だと偽り、素直に感謝出来る日。
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