▼ 春の悪戯 (3/6)
いのが悪いんじゃないと分かっていても、あのとき楽しそうに木をのぼり始めたいのを恨んでしまう。
いのが行かなければ、引っ込み思案だった私は絶対に行かなかったんだから……
花を見て、取って頭に飾ってみたり。
そうやってひとしきり遊んでしまうと、木にのぼっていた子たちは次々とおり始めてしまった。
連鎖反応で、あっという間に人は消えていく。
その流れにのっていのも木をおりる。
さあ次は私の番だ、そう思って体を動かした瞬間私は悟った。
無理だ、と。
そりゃあのぼり方を教わったわけじゃないけど、のぼれた。
でもおりるのはまた別問題。
足元もろくに見えない状態で少しずつおりる勇気もなければ、木に背を向け飛び下りる思い切りのよさも、そのときの私にはなかった。
大丈夫。
根拠もなしにそう言って励ますいのに、私は唯一動かせた口を動かして、こう言ったんだっけ。
「でもいのちゃん、落ちたら怪我しちゃうよ。私いのちゃんみたいに運動神経ないもん」
どこまで自分を卑下したこと言っていたんだろう。
今の私ならそんなこと絶対に口にしないけど、そのときの私はとにかく必死だった。
この言い合いに勝てばいのちゃんが助けてくれるんだ、そんな風に思い込んでいたほどに。
「平気平気、だってこんなもんしかないんだよ?」
いのは、そのときのいのの肩幅の二倍くらいの長さを、両手を広げて表した。
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