ひだまり | ナノ


▼ 黄昏に微笑む (9/16)

あの衝撃の日から数日。
名前はサスケ君にべったりだった。
サスケ君もサスケ君で、文句も言わずにされるがままになっているのがらしくない。

まさか名前に限って――。

初めは安心しきって様子を見ていた女子たちも、これは悪い冗談なんかじゃないんだと気づくとにわかに落ち着きをなくしていった。
何しろ名前の絵を描くスタンスは、描きたいと決めた構図が見つかるまで、ひたすら待ち続けるのだ。
そして理想の一瞬を見つけたら、一気に描きあげる。
それは獲物がくるまでじっと身を潜め、機を狙って仕留める狩りとよく似ていた。
つきあいの短い女子には、間近でサスケ君を見たままろくに手も動かさない名前が、まるで恋をしているように見えているらしい。

「いの、名前ったら急にどうしたの?今までサスケ君なんて興味ないって感じだったのに、いきなり変わったわよね」

例に漏れず不安にあおられたサクラが、ライバルであるはずの私に話し掛けてきた。
それがなぜ私をいらつかせるのか。
出所の分からない怒りに、態度は素っ気なくなってしまう。

「私に聞かないで、こっちだって驚いてんだから」

窓枠に腰掛けていた私が、チャイムも鳴る前に席に着けば、サクラは当たり前のように隣に座る。

「でもあんたたち仲良かったじゃない。一緒にいて、心境の変化とか、そういうの感じなかったわけ?」

「あーはいはい、私はどうせ鈍感ですよ」

「べつにそんな事は言ってな…」

「私はあんたのことだって分かってなかったじゃない。ずっと一緒にいたのに、ね」

必要以上に語尾に力を込めれば、それ以上言葉は追ってこなかった。
無言で立ち去るサクラの不審がる気配を感じながら、机に突っ伏した私は軽く自己嫌悪に陥っていた。

自分でも、言うべきではないと、分かっていたのに。
冷静だった私はどこに行ったんだろう。
名前がサスケ君の傍にいるのを許されていると思うと、心が乱されて仕方ない。

まさに感情むき出し。
今の私は最高に嫌な奴だ。
だけど名前は私に見向きもしない。
私の感じる焦燥感とは無関係に、今の名前は新しい被写体に夢中だ。

サスケ君が長い髪の女の子が好きだと聞いて、それ以来伸ばしてきた私の自慢の髪。
サスケ君が女の子のタイプをとやかく言うわけがないと気づいてからも、やっぱり噂はジンクスのように感じられて、切る気にはならなかった。
修行の邪魔になりそうだと男子にからかわれることがあっても、切らずに伸ばしておいてよかった。

うつむいて広がった前髪の隙間から、そっと二人を覗き見た。
自分を苦しめるだけだと分かっていても、見ずにはいられない。
ある種の特別な雰囲気を醸している二人に近づける人はいなかったけれど、誰もがどこかで二人を気にかけていることは明白だった。

私のこんなお粗末な覗き見に誰も気づかないなんて、どうかしてる。
それでも忍の端くれって言うから笑っちゃう。
ばっかじゃないの。
私も、みんなも。

不安が胸に巣くうと、決まってよみがえる言葉が私にはある。

――友達ごっこに、付き合えっていうの?

一見友達だったような私と名前の関係は、実はただの“ごっこ”だったのではと。
そう思ったことは一度や二度ではない。

最近はイルカ先生の声がどこか遠くに感じられ、得意だった組み手の授業もいまいち冴えなかった。
だけど不安の現れを指摘されるのが嫌で、名前がサスケ君の隣に座ることが習慣づいても、私は意地でも窓ぎわの席に座り続けて人を寄せつけなかった。

そんな鬱々とした日が続いたある日。
親から花を持たされ、早めに教室に行って生けようとした私は、教室の扉に手をかけたまま硬直してしまった。

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