ひだまり | ナノ


▼ 黄昏に微笑む (8/16)

予想もしなかった変化は唐突に訪れた。
男女別々の特別授業が終わり、同級生の流れに身を任せて教室に入ろうとしたときだ。
私の目の前を歩いていた名前が、引き戸に手を掛けたまま、敷居の上でぴたりと、何の前触れもなく足を止めた。

「ちょっと名前ー?なーにやってんのよ」

すぐ後がつっかえていた事もあり、軽めに入室を促したけれど、名前は根が張ったかのように動かない。
そして静かにこう言った。

「その顔、いい…」

「え?」

聞き返す私の言葉に答えもせず、名前はただ一点に集中していた。
つかつかと歩き出したかと思えば、たむろっている男子からは一線を引き、孤立して着席していたある人物の前で立ち止まる。
名前から人に、さらに言えば男子に近づくことなんて一度もなかったから、どうしたんだろうと思い、教科書を机に起きながら何気なく様子を窺った、次の瞬間。

名前の肩幅まで広げられた両掌が、突然その距離を縮め、パンと大きな音を打ち鳴らした。
まるで音を消す魔法のようだった。
がやがやしていた教室の雰囲気が一転、ぎょっとした同級生が言葉を失い、音源を探して振り返る。
教室中の人間が見守る中、合わせられた手はそのままに、名前は頭を下げ目の前の人物を拝みだした。

「うちは、その顔ステキ!ぜひ描かせて!」

うちは、そう呼び掛けられたクールなサスケ君ですら、突然の名前の行動に頬杖をつくのをやめ顔を上げた。

「……ハァ?」

「だから、描かせてって!」

「お前、人は描かない主義だったろ」

「この間から描きはじめたの。やっぱりモデルは見目がいい方がいいし、ね、お願い、お願いしまーすっ」

「断る」

一刀両断。
交渉の余地なしと席を立つサスケ君。
すると意外なことに、あそこまで恥を捨て頼み込んだ名前も、「分かった、うちはには頼まない」とだけ言うと、すんなり引き下がった。

あの一瞬の盛り上がりは何だったのか。
おそらく私と同じことを思っているだろう同級生たちが、固唾を呑んで二人の成り行きを見守る。
サスケ君は注目されるのが嫌だったのか一度教室を出ようとし、名前は私の隣に落ち着くかと思えば通り過ぎ、その足で今度はナルトの前へ行く。

「うずまき、ちょっとうちはに変化してモデルやってよ」

そしてまたもや一同唖然の、無茶な発言。

「ハァ!?なんでオレがそんなダッセー奴になんなきゃなんねーんだってばよ!」

「悪戯だよ、悪戯。二人で組んでアホ面のうちはを描きまくって、アカデミー中の女子に配って回ろう」

「それは…ナイスアイディアだってばよ名前」

声を潜めた二人の会話だったが、なんだかんだでサスケ君は聞き耳を立てていた。
ついさっきまで教室から出ようと歩いていたはずなのに、気づけばくるりと方向を変えていて、ナルトとの会話で盛り上がる名前の肩を背後からがっしり掴んでこう言った。

「ちょっと待て…そうか、そこまでするってんなら、いいだろう。ただし、オレの邪魔だけはするなよ」

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