▼ 黄昏に微笑む (4/16)
授業中、サクラはかつて私が紹介した友だちと、こそこそ笑い合っていた。
うるさそうに後ろを振り向いたサスケ君にまで嬉しそうに愛想をふりまく。
なんだか、気に入らない。
私は教科書を読むふりをして時間ばかり数えていた。
机に書いた正の字はもう六つになる。
あと三つ増えれば、とりあえずこの授業は終わる。
遅れ気味になっていた板書を進めようとしたとき、前方の生徒が前触れもなく立ちあがり、黒板が見えなくなった。
「へっへーん、こんないー天気なのに、くそ真面目に授業なんかやってられるかってばよ!」
ナルトの脱走と、それを止めるでもなく面白がる男子たち。
「こら待てナルトォー!」
そして追いかけるイルカ先生。
恒例の脱走劇がはじまって、うちのクラスはまた自習になる。
逃げ足の早いあいつは器用に屋根をつたって、商店街にまぎれこもうとしているようだった。
観客は窓際に集まり、私は肩身がせまくなる。
ほんの少し前までは、イルカ先生も、あんなバカは放っておいたのに。
今は授業をふいにしてまでナルトに構う。
必死に生徒を追いかける先生を見ていて、ふと思った。
身近な人が知らないうちに変わることって、あんがい日常的なことなのかもしれない。
それでも、と思って名前を盗み見る。
なぜだろう、名前だけはこの先ずっと変わらない気がした。
サクラは内気なだけで、外に出ることを望んでいた。
だから私は手助けしたけれど、名前はそれを必要としていない。
この騒ぎの中でも、名前は周りが全然気にならないように、自分の世界に引きこもっているくらいだ。
そしてノートにひたすらなにかを書きつけている。
自習なんて名目で、勉強なんて誰もしてないのに。
朝からずっと勉強勉強。
そのくせ成績はぱっとしない。
つかみどころのない名前を不思議に思いながら、することもなく横目で様子をうかがっていた私は、ちょうど目撃してしまった。
チャイムがなり休み時間に入ったとき。
立ち上がった名前が、その拍子にノートを落としていったその一部始終を。
ばさりと音がしたのに、名前は気づかず教室を出ていく。
見過ごすことが性に合わず、昨日までなら放置されていただろうそのノートを、隣の席のよしみで拾いあげた。
そして何気なく開いたページに、目がくぎづけになる。
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