ひだまり | ナノ


▼ 肉食系女子 (10/10)

それからすぐに下忍として活躍したかといえば、そうではない。

晴れて忍になれるかと思いきや、その後すぐふるいにかけるように、スリーマンセルでの演習が実施された。
イルカ先生が発表したチーム分けはブーイングものだ。
私のチームも例外なく不満だらけで、団結力などつゆほどもない。
それでも協力しようとかけ続けた私の声は、結局最後まで誰の心にも届かなかった。
そして上忍を出し抜くことが出来ずにあえなく時間切れ。

もういいや、またアカデミーから頑張ろう。
肩を落とす私は、下忍になるのを見送られた。

しかしいい知らせもあった。
個別合格枠というものにすべり込めたのだ。
どうやら補欠合格のようなものらしく、同じように個別で受かった者同士が、頭数がそろうまで時期を待つ。
たまに未来の担当上忍が顔を出し、体がなまらないように手合わせをしてくれた。
あと一人の合格者が出れば下忍デビューだ。

そういう微妙な時期に、商店街でチョウジと出くわした。

「ああ、名前。久しぶり」

本当に久しぶりに会ったのに、まるで昨日までアカデミーで顔を合わせていたかのようなテンションで話しかけられた。

「久しぶりだね。元気だった?」

「うん、元気元気。修行でケガはしちゃうけど」

「私もたまに上忍の人に手合わせしてもらってるよ」

「へぇ、それならいつ下忍になっても大丈夫そうだね」

私の個別合格の件は、すでに下忍になったチーム内では共有されている。
彼らは私がすぐに追いつくものと思っているだろうが、私としては差が開いていく実感があるだけだ。
それも、自分の努力が及ばない事情で待たされている身だから尚更、気持ちが落ち着かない。

「私も早く、下忍になりたいんだけどなぁ…」

「任務で遠くに行ったら、ご当地の美味しいものが食べられるしねェ」

そう言って、チョウジがパクリと口にした肉まんは、見慣れない包装紙だった。
それがただの肉まんだったら、私の指はこんなに震えなかっただろう。

「まさか、それは噂に聞く…」

チョウジの持っていた袋をさすと、彼はニヤリと笑う。

「そう、サツマイモを食べて育った豚を使った、幻の肉まん。ほのかに甘いって、本当だったんだね」

「そんなっ、工場直営でしか売ってない超レア物じゃない!暇な主婦しか買いに行けないって言われてるのよ!」

「ちょっと任務でその工場に行ってね」

お礼でもらったんだ、とチョウジは嬉しそうにまた一口食べた。
袋にはまだ何個も入っているのを見て、私も嬉しくなって手のひらを差し出す。

「ひとつ、よこしなさい」

「え?」

心底心外そうな顔をしてチョウジが聞き返した。

「だからその肉まんを一つよこしなさい。何なら五十両だすわ」

「嫌だよ、だって一袋しかもらってないんだ」

「肉まんが一袋って、あきらかに一人の食べる量じゃないわよ。――百両」

財布を投げつけかねない私を見て、不敵に笑うチョウジ。

「最後の一つには、お金以上の価値がある」

どこかで聞いたことのあるセリフを合図に、私たちの追いかけっこが始まる。
今にもイルカ先生の怒鳴り声が聞こえてくる気がした。

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