▼ 肉食系女子 (9/10)
チョウジにポテチを買い占められるよりずっと、許せないと思った。
チョウジは確かにデブだ。
ぽっちゃりなんて言葉には収まり切らないほどのデブだ。
人の食べ物をかすめ取る、底意地の悪いデブだ。
だけどその大きな体の中には、たくさんの優しさが詰まっていた。
私のことを見た目で判断せず、名前という一人の人間として接してくれた。
応援してくれた。
励ましてくれた。
隣人の悩みを、真摯に受け止めてくれるとてもいい奴だった。
それをただのデブとして笑いものにする。
表面的な欠点だけをあげて、悪意のない人間を貶めていいわけがない。
「お前ら全員、最低だ」
脂肪を筋肉に変えた私の腕は、体格の変わらない男子一人くらいなら簡単に押さえつけられた。
それでも、この上さらに危害を加えるようなら、私も同じく最低だ。
しかし変わらず睨みつけてくる男子を見ると、どう決着をつけていいのか分からないでいた。
そんな私を止めてくれたのは、とても大きな影だった。
「友達にそんなことしちゃ、ダメだよ」
よいしょ、と横から割って入ったチョウジは、軽々と男子を持ちあげて床におろした。
思わぬ助けに動揺したのか、男子は素直にチョウジに礼を言っている。
それを受けて笑いかけるチョウジに、さすがに私が不憫だと思ったらしい。
「ちょっと、チョウジ…」
言いかけたいのを、シカマルが手で制する。
クラスがしんと静かになった。
しばらくしてから、まあ、なんだ、と教室の中心の席から声があがる。
「名前がチョウジのこと、ダチって思ってることだけは、伝わったぜ」
キバはこういうとき、自分がクラスの雰囲気をどうにかしなければと思うのだろう。
いつもの雑なまとめ方に、ようやく気の抜けた空気が戻ってきた。
それから間もなく、アカデミーの卒業試験が行われた。
私は三体の分身を出し、無事に合格することが出来た。
額当てを受け取り校門前に集まる。
仲のよかった子たちで固まっていると、壁ぎわにいるチョウジを見つけた。
記念写真は三家族合同で撮るらしい。
いの、シカマル、チョウジ。
並んで笑うそのぽっちゃりと、一瞬だけ目が合った気がした。
こうして、最後まで一枚のポテチも奪えないまま、私は卒業を迎えた。
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