ひだまり | ナノ


▼ 肉食系女子 (7/10)

確かに、ここで終わっていれば、私はチョウジを崇めていたことだろう。
しかしどうにも腑に落ちないことがあった。

「あいつ、私がダイエットに成功して、ご褒美に買ったレモンタルトを横取りしたんだよ」

三時間並んで購入したものだった。
数量限定、期間限定だったあのタルトは、里から絶賛されながらも未だ復活していない。

「それだけじゃない。三層の重なりでサクッとおいしいアップルパイ。鉄板で少し焦げたソースが香ばしいお好み焼き。こってり濃厚豚骨スープの太麺ラーメン……」

彼曰く、おいしそうなものはカロリーが高いから危険だよ、と。
気がつけば隣にいたチョウジは、私のささやかな楽しみを奪い続けていた。

「新発売のアールグレイ味のチョコレート菓子に、アカデミー帰りに買い食いしようとした唐揚げ棒……」

細身の自分をキープしたかった私は、それももっともだと思って慎ましい食生活を送るよう心がけるようになった。
が、悲劇はそれで終わりではなかった。

「最終的には人のお弁当にまで手を出してきたよ」

嫌いならボクがもらっとくよ。
そう言ってひょいと摘まれた肉巻きアスパラは、私が最後の楽しみに取っていたものだった。

さすがにそれはないんじゃない、とチョウジに訴えた私は、それでもまだ私のダイエットを気にしてくれているものと思っていた。
だからそれを理由にされるなら、ここできちんと説明してやろう。
そう思っていたのに、チョウジの口からこぼれたのはこんな言葉だった。

「あ、ごめん、つい。クセで手が出ちゃった」

つい口をすべらせたチョウジは、開いた口が塞がらない私に睨みつけられる。
頼もしいマネージャーと思っていた彼は、いつしかプレイヤーそっちのけでゲームを引っ掻き回すただの子供に成り下がっていた。
信頼が音を立てて崩れていくのが分かった。

「しかも許せないのがね…。チョウジの奴、あれだけ私から食べ物を奪っておいて、自分の分は一口たりとも渡しやしないんだよ?」

「ああ、そういうとこあるわよね、あいつ…」

いのも思い当たる節があるのか、苦笑してそう言った。

世の中には、太ることが難しいという人もいるらしい。
その点、私は才能があった。
チョウジのおかげで暴食に走らず、脂肪を筋肉に変えることが出来たのは本当に感謝している。

しかし、だ。
太りやすい私は、これからも一生おいしいものを食べてはいけないのだろうか。
いやそんなはずはない。
豊かな食事は、人生を味わい深いものにしてくれる。
たまには息抜きも必要だ。

こうして馴染みない級友との距離が縮まったのも、ポテチとみたらし団子のおかげなのだから。

「さて、そろそろ帰りますか」

話し終わってから、適温になっていたお茶を飲み干す。
もう一本残ってしまったお団子は、どちらも手がつけられず、私が手に持ったままだった。
持って帰っていいよ、という言葉をほんの少し期待していたのだが。

「あ、最後の一本って気まずいよね。余ってるならボクがもらっとくよ」

件の人物は、たまたま店の前を通りかかった。
そして私の両手が湯飲み茶碗とみたらし団子で塞がれているのをいいことに、包装紙から器用にだんごだけをかっさらって行った。
華麗なる犯行だった。

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