▼ 肉食系女子 (4/10)
ポテチ、ポテチ――そう、あのときも確か始まりはポテチだった。
当時、誰もいない屋上で一人ポテチを抱えていた私には、悩みがあった。
いくらお弁当にご飯をつめてもらっても、トイレで隠れて飴を舐めて誤魔化しても、夕食までお腹がもたなかったのだ。
最後の授業を受ける頃になると、いつお腹が鳴ってしまうかと気が気ではなかった。
しかし人前でむさぼり食う姿は好んで見せたいものでもない。
皆から隠れて満足するまで食べるには、放課後しか時間がなかった。
一度下校してから、毎月のおこづかいを切り崩し、お菓子を買う。
それを持ってまたアカデミーの屋上まで戻る。
この間食は親にも秘密だった。
だから夕食は絶対に残さない。
怪しい動きを見せたら、即アウト。
そんな毎日を送っていると、またべつの悩みが出てきた。
「太ったんでしょ?」
「なぜ分かった!?」
「…あんたそれマジで言ってんの?」
いのはヤレヤレと呆れていたが、すぐにあることを思いついたようだった。
「でも…そんなに太ってた印象ないんだけど……」
「うん。変化してたからね」
太ももについたお肉が、椅子に座ったとき、横にぶにょっとはみ出した。
隣に座ってた女の子がそれを見て小さく笑った。
私は顔に血液が集まっていくのを感じた。
それからだった。
私は変化をして、理想の体型をして過ごすようになった。
しかし一日中術を使っていたのではチャクラの消費が激しく、体の疲れを何とかしようと、食で補うようになってしまった。
明らかに悪循環だと、今なら思う。
だが気がついたときには抜け出せないくらいに太ってしまっていた。
もう後戻りは出来ないと、ポテチを抱えて溜め息をついていた私の隣に、いつの間にかチョウジが立っていた。
「何で名前はまずそうにお菓子食べてるの?」
「まあ…色々事情があって……」
「ふぅん。ほんのりわさび味は苦手な子もいるしね」
「いや私はわりと好きな方かな」
「ボクがかわりに食べてあげようか?」
「いや好きなんだけど…」
「ていうか食べていい?」
チョウジはただの空腹だった。
匂いにつられて屋上まで来たらしく、落ち込んでいた私は相手が面倒になって、ポテチを押しつけて帰宅した。
その対応がいけなかった。
「チョウジはあれで完全に餌付けされたのよ」
「……えぇー」
「思ってたのと違うって思ってるだろうけど、まだ続くからね?」
「私そろそろお腹いっぱいかなァ」
立ち上がりかけたいのの肩を、体重をかけて戻す。
あれからチョウジは、 頻繁に屋上に寄るようになった。
あのときの私たちを目撃されていたら、それこそすぐに噂は広まっていただろう。
幸いそんなことにはならなかったが、私はチョウジが出現するたび食べかけのお菓子を奪われていた。
これもダイエットを始めるいい機会か。
そう思って半ば諦めかけていたけれど、私は大事なことを忘れていた。
そもそもの間食の理由。
チャクラの消費を補うためだったことを。
ぼんっと、突然変化が解けた私を、チョウジはまんじゅうを食べながら見ていた。
特に感想はないらしく、彼は黙々と食べ続けていた。
しかし私は大パニックだ。
ずっと隠し続けていた姿が、ついに人目に触れてしまったのだから。
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