▼ 5.波の国へ超出発! (9/10)
昔むかし――木ノ葉の里が誕生するよりも、ずっと前。
それは神話の時代に近い頃の話だという。
畔に桃の木が立ち並ぶ、美しい川を下ったその先に、険しい山がそびえ立っていた。
そして四方をその険しい山に囲まれ、外界とは隔絶された土地に、とある一族がひっそり暮らしていた。
一族は忍として生きることはなかったが、時を操る術に長けていた。
その能力は、“時の奏者”として周囲の隠れ里から一目置かれるほどであった。
水神を信仰し、ただ平穏に暮らすことを望んでいた一族は、やがてその時代から姿を消すこととなる。
当時頻繁に勃発していた内戦の犠牲となったのだ。
その類い希なる秘術をもって戦果を挙げようと、一族に力を求める忍が出てきたことが原因であった。
しかし平和を愛する一族は中立を貫き、それを拒否し続けた。
強大すぎる力は、畏怖の念を抱かれ、ときに迫害される。
その一族もまた例外ではなかった。
戦うことで存在を示していたその時代。
戦いを拒む一族は異端者として扱われ、誰もが近づかなかった一族の住む土地は侵略され、大量虐殺が起きた。
しかしおかしなことに、捕らえられた一族の中に子供はただの一人もいなかった。
外界とその土地を結ぶ唯一の入り口はすでに制圧され、逃げ出した形跡はない。
ある忍が、まだ息のある者にそのことを問い質した。
すると、その者はこう言って息絶えた。
彼らは時空を越えて生き延びた。
我ら一族は決して滅びたりはしない、と。
歳月が経ち、その一族の悲劇を知る者も次第に減っていった。
長い戦いの中で地形も変わり、一族を手にかけた者たちの中ですら、その一族がどこで生き暮らしていたのか、知る者はいなくなった。
もはや言い伝えの中でしかその存在を知られない、幻の一族。
その一族の名を『時野』と言う。
今はその名の他に、現在まで正確に伝わっているものはない。
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