▼ 5.波の国へ超出発! (5/10)
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ガラガラ――。
扉を開け、第七班の視線を一点に集めたその人は、酒瓶を持って現れた。
その依頼人らしからぬ姿にソラの表情が強張る。
突然沸いてきた興奮を抑えきれず、拳を固く握りしめた。
「なんだぁ?超ガキばっかじゃねえかよ」
この格好、この口癖、覚えがある。
――ついに物語が動き始めた。
「特にいちばんちっこい、超アホ面。オメェそれ、本当に忍者か?」
ここから先、ソラは詳しい展開を知らない。
そしてこれは忍者が主人公の少年漫画だ。
「アハハーだーれだーいちばんちっこいアホ面って…」
これからどんな危険が待っているかなんて分からない。
「ぶっころーす!」
ソラの命の保証も、ない。
「これから護衛するじーさん殺してどーする、アホ」
ナルトたちにとって、これは成長するために必要な任務だろう。
だからこそアニメでも放送された。
しかしソラは立場が違う。
「ワシは橋作りの超名人、タズナというもんじゃわい。ワシが国に帰って橋を完成させるまでの間、命をかけて超護衛してもらう!」
高らかに言い放つタズナからソラは一歩身を引いた。
絶対に関わってはいけない人物だと、全身が拒否を始めている。
ソラの知るNARUTOはギャグ漫画ではなかった。
そりゃあ、カカシが黒板消しのトラップに引っかかったときは多少くすりときたが、基本的には手裏剣やクナイが飛び交う、バトルの世界だ。
せっかく上手くいく任務も、ソラがいたら足手まといになるだろう。
しかしこのままいくと、火影はためらいもなくソラをこの任務にも同行させる。
何か特別に理由がない限り、ソラはカカシ班と一緒に行動することになっている。
この任務が本当はCランク任務でないと言えば、と思い、考え直す。
いいや、ダメだ。
そんなことをしたら、タズナに迷惑がかかる。
しかも問題はそれだけではない。
もしこの任務を私が回避出来たとしても、その次何が起こるなんて、ソラはまったく知らない。
ナルトの夢は火影だ。
いずれ里を揺るがす大事件が起こってもおかしくない。
いくら上忍レベルの忍に守られているといっても、そんな事態に陥ったときまで、無事でいられるだろうか――。
木ノ葉が好きだと言って甘えていられる時間は終わったと、ソラは直感した。
早く帰る方法を見つけなければ、シカマルのいう、自分の帰りを待っている人にも一生会えないままだ。
悠長に構えている暇は、もうなかった。
でも、だからといって、調べる方法なんて何があるというのか。
アカデミーの歴史書は読み尽くした。
過去にソラのような事例は見つけられなかった。
他に何か、ソラに許された権限で、ソラに可能な行動範囲で、ソラに残された時間で、いったいどんな手を打てばいい。
教えてくれる者は、誰もいない。
握り締めた拳が、ただただ、痛かった。
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