▼ 4.ヒコーキ雲 (11/13)
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ドアを開けると、途端熱気がどっと押し寄せてきた。
そして服に染みつきそうになる肉の焼ける臭い。
昼間から焼肉を食べる奴はそういない。
その臭いを辿って行くと、そこには十班とソラがすでに腰をおろして待っていた。
テーブルの上は皿が一、二、三――指差し数えかけていた手をアスマは止めた。
十中八九犯人はチョウジだろうが、一体この子供たちは何人前を頼んだのだろう。
財布の中身を確認して溜め息をついていると、向かいで目が合ったソラが立ち上がって一礼した。
「アスマ先生、お先に頂いています」
いのとシカマルは小声で何やら言ったようだったが、注文が滞っているせいか厨房で指示が飛び交い、聞こえはしない。
チョウジに至っては肉に夢中で見向きもしなかった。
テーブルまで近づくと、シカマルが腰を浮かせて場所を空ける。
そこに座るとようやくいのの声が響いてきた。
「あーソラ、私も呼び捨てにしてるんだし、ソラもいのちゃんじゃなくて、いのって呼んでよ」
丹念に肉を焼きながらソラに話し掛けている。
ソラは困ったように笑いながらも、嬉しそうだ。
そんなやり取りがしばらく続いた後、さりげなくシカマルが探りを入れてきた。
「で、何の用だったんだ?」
相変わらず頭の回る奴だ、とアスマは感心した。
同い年の班員は肉とおしゃべりに夢中だというのに。
「何の話だ」
しらばっくれてみたが、効果はない。
シカマルの眉は吊り上がっている。
「オレたちはまだ駆け出しだってのに担当上忍が任務中に呼び出されるなんてよ、何かあったんだろ」
「何かってなんだ」
「さァな。分からねえから聞いてんだ」
読みはいいが、詰めが甘い。
気づかれていないなら話す必要もない。
「大人の事情だ」
頼んでいたビールが来たところで話を打ち切り、一口飲んだときだった。
「ソラに関係あんだろ」
「……ゲホッ」
いきなり核心を突かれ、アスマは咳込んだ。
「ちょっと先生きったなーい…大丈夫?」
いのに手渡されたおしぼりで口を拭く。
「悪いな」
礼を言うと、隣にいたソラも心配そうにこちらを窺っている。
その瞳に引き込まれ――
薄暗い室内。
机に積まれた書類。
その片隅に生けられた花。
そして、集められた上忍。
『ここ最近ソラのチャクラが異常なほど跳ね上がってまして――』
耳の奥によみがえるカカシの声に。
『チャクラを練っていない状態ですので確かなことは言えませんが…おそらくチャクラ量はオレをしのぐほどだと思われます』
――アスマは火影室を思い出した。
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