▼ 4.ヒコーキ雲 (9/13)
「お前、オレが好きな場所聞いたら、この里だって言ったよな。突発的な質問にお前がとっさに答えたのがこの里ってのは、お前の意識がもうこっちにある証拠だろ?」
「さすがにそれは、こじつけっぽいかも」
「何でだよ?」
「だって私が今いるのはこの世界で、シカマル君が知っているのもこの世界。それなら私たちの知っているこの世界で探すのが妥当、じゃないかな」
仮にソラが遊園地だと答えたら、シカマルはピンとこないだろう。
取るに足らない雑談だ。
話の腰を折るよりも、相手に合わせてテンポを楽しむべきだ。
ソラの考えには一理あったが、相手の方が一枚上手だった。
その言い訳を待っていたのだろう。
シカマルは意地悪く笑って続けた。
「じゃあもう一度聞くけどよ、お前の好きな場所はどこだ?」
「どこって――」
言い淀むのは負けたようで嫌だった。
だからすぐに答えようと、思うのに。
ソラは、答えられない。
学校は嫌いだった。
登校拒否こそしなかったけれど、目が青いからと、ただそれだけで好奇の目が向けられることが我慢ならなかった。
家も苦手だった。
学校であったことを話さないソラのせいで、会話のない親子だった。
本は好きだったけれど図書館も怖い。
同級生に会うかも知れない怯えから、いつもそそくさと貸出を済ませて帰っていた。
好きな場所なんて、なかった。
結局のところ、ソラはどこにいても孤独で、寂しかったのだ。
だからナルトの温かさに甘えてしまう。
戻れなくてもいいかと無意識に思っているのかもしれない。
「メンドクセーからこれ以上ぐだぐだ言わねーけどよ、」
そこで区切った後に、シカマルが続ける。
「お前が帰りたくなくても、お前の帰りを待ってる奴は、いると思うぜ?」
ソラはシカマルを見て固まる。
ふいにすくい上げられた気がしたのだ。
そうか、そういう帰る理由もあったのか。
「……そうだね」
ありがとう。
聞こえないくらい小さくつぶやいたのに、シカマルは照れたように顔を背けた。
気のせいか、その頬はすこし赤い。
妙に大人びた口ぶりだった彼が、急に少年に戻っていた。
その表情が年相応に可愛くて、ソラの悪戯心がくすぐられた。
「シカマル君てさ」
「あ?」
「面倒くさいって言うわりに――」
「なんだよ?」
「面倒見いいよね」
「…っるせーな……これだから女って奴は、」
「でもそう言いつつ返答はしてくれるんだよ、優しいから」
「ンなんじゃねーよ」
「ほら」
「……あ゛ー、うるせー」
しゃべればしゃべるほど分が悪くなると気づいたのか、それだけ言うとついに相手をしてくれなくなった。
ここに来たときと同じように、黙って空を見上げている。
ほんの数分前としていることは同じだけれど――そのときよりもずっと清々しい気持ち。
それはきっと、ソラの隣にシカマルがいてくれるからだ。
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