▼ 4.ヒコーキ雲 (8/13)
「そんなことない」
言ってから、違和感がソラを襲う。
この里が好きだと言ったとき、あれだけしっくりきていた自分の言葉が、今は他人のもののように感じられる。
「嘘だろ」
それを見抜いてか、シカマルの口調はもはや断言に近い力強さだった。
「…なんで、そう思うの?」
自身ですら知らない答えを、ソラは他人に乞うている。
恥ずべきことなのかもしれない。
自力で見つけなければならないものを、人に導いてもらおうとしている。
それでも、ソラは知りたかった。
「お前がこっちに来たばっかのとき、アカデミーのイルカ先生んとこにいたらしいな」
「そうだけど」
「それで、木ノ葉の歴史書を読みあさってたと。それって過去にも自分と似た奴がいなかったか調べてたんだろ?もしいたら、帰る方法も見つかるかもしんねーしな」
それから急にシカマルの声のトーンが落とされた。
「…だがここ最近のお前は、下忍について任務に同行する毎日。アカデミーにある書物には一通り目を通しちまったってのもあるだろうけどよ、それだけじゃねーだろ?」
「…………」
「要するにだな、オレが言いてーのは、まだ帰る気があるんだったらよ、こんなとこで悠長に雲なんか眺めてる余裕はねェんじゃねーかってことだ」
ソラたちの頭上を、雲が流れていく。
ゆっくりと、だけれど確実に。
時間は過ぎていっている。
しかし変わりなく見えるこの青空は、ソラの世界へは繋がっていない。
どんなに願っても、ソラを元の世界まで連れて行ってはくれない。
ソラはすべてから見放され、縁もゆかりもないこの土地にいる。
そして知り合ったばかりの男の子に見透かされたような発言をされた。
少し前までは、こんな状況許せなかっただろうと、冷静な部分で思う。
だけど今はどうだ。
この状況を受け入れ、満喫している――シカマルの言うとおり、ソラはもう帰るつもりなんかないのかもしれない。
「シカマル君て頭いいんだね。それだけの情報で、あんなにもっともらしい答えをだした」
「もっともらしいって、違うのか?」
違うはずない、そう思っているのだろうけど、シカマルは形だけの疑問を投げかけた。
ソラはそれに、さぁ、ともったいぶった返事をする。
明確な返事なんて出来ない。
ようやく自身の迷いを自覚したばかりなのだ。
「…あとひとつ、その事実を裏づける情報があった」
シカマルの瞳の中で、ソラが体を強張らせた。
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