▼ 4.ヒコーキ雲 (7/13)
青い空に白い雲。
どこかの歌詞にありがち定番の眺めだった。
見上げる世界は違っても、やはり空は青く、雲は白かった。
何一つ変わりないこの風景が、悔しくも美しく、ソラの目に焼きつく。
いのと別れた場所で一言発したきり、シカマルはソラに話しかけなかった。
シカマルがそんな様子だから、初めは話題を探していたソラも、すぐに諦めて彼の後を追うことに専念した。
そうして着いたのがとある場所。
居住区の中の共有地なのだろうか。
シカマルが自分の敷地のような気軽さで階段をのぼり行き着いたのは、あまり高くない建物の屋上だ。
簡素な造りだがゴミひとつないほどきれいだった。
まさかここまで来てさぼるつもりか。
訝しんだ目で見ると、シカマルはすでにゆったりめのベンチに腰をおろしていた。
背もたれがなく、大人数が座れそうな真四角のベンチだ。
背負っていた籠を下ろすと、すぐに腕を組んで後ろに倒れる。
することもなく暇なので、仕方なくソラもその隣、一人分スペースを空けて腰をおろした。
そして彼にならって横になってみる。
春風が気持ちいい。
何も話さず、ただのんびりした時間を共有する。
流れゆく雲を眺めながら、沈黙は実に自然に破られた。
「ここ、オレのとっときの場所」
細かな箇所が省かれた、短い言葉だった。
シカマルは本当に面倒臭がりなんだろうとソラは朧げに思った。
「お前は」
単調な口ぶりにてっきり独り言かと思っていたソラは、シカマルの言葉を聞き流していた。
しかし右側からの視線には気づき、はっとする。
そして再度尋ねられる。
「お前の好きな場所は?」
今度はきちんと返事をしようと口を開く。
が、先が続かなかった。
――私の好き場所って、どこ?
空を見上げる。
ナルトの隣の家、サクラと回った商店街、サスケと出会った演習場、紅が付き添ってくれた病室、本を読みあさったアカデミー、歓迎会をした一楽。
様々な場所がソラの頭に浮かんでは消えていく。
どれも何かがズレている。
しっくりこないのだ。
多分、大切なのは、場所ではない。
「皆がいる、この里かな」
言ってから、ああ、そうなんだ、と実感が増した。
私は皆がいるこの里が好きなんだなと。
さっきまでは見なれなかったこの屋上も、シカマルといるだけで愛着が沸いた。
明日にはもう、ソラにとっても特別な場所になるはずだ。
自分の答えに満足してもう一度シカマルを見ると、しかしなぜか彼は不服そうな顔だった。
しばらくその表情のまま、そして視線を外してから一言。
「お前自分の世界に帰りたくないだろ」
その言葉は、ソラの心臓を鷲掴みにした。
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