▼ 3.新しい服 (9/11)
始めに向かったのは、商店街から一本奥まったところにある、こじんまりしたお店だった。
サクラは常連らしく、ソラの手を引いてまっすぐ売り場の中を進んでいった。
「ほら、これなんか可愛くない?」
そして手に取ったのは、派手な色の服だった。
形も個性的だが、サクラが着たら可愛いんだろうな、とソラは思った。
けれど、それは他人事のような感想でしかなくて、自分が着るとなると何かズレている。
ソラが断る言葉を考え込んでいると、サクラはすぐにべつの候補を持ってきた。
「これもなかなか…」
そう言っては手当たり次第に服を掴んで、ソラの体に合わせて眺める。
そして納得がいかないと、相手の意見を聞く前から次の服に手を移す。
「この色も、ソラさんに合うわね」
ピンクに黄色にオレンジに――かつてソラが着たことすらない明るい色を、迷いなく選んでいくサクラ。
その目は真剣だ。
「何このデザイン、すっごくイイ!」
とかなんとか、たまに脱線して自分の世界にワープすることがあり、疲れたソラが安堵していると、やはり休む暇は与えられず。
「これはどう?」
と満面の笑みで振り返ってくる。
その変わり身の早さは、さすが忍者というべきか。
「あ、そこの服、試着してみましょうよ」
そしてソラは着せかえ人形のように扱われ、
「じゃあ次の店行きましょうか」
次から次へと呉服屋のはしご。
「……って待ったーーー!!」
収穫なく三件目の店に入ろうとしたところで、ソラは思わずサクラを引き留めた。
「なあに?ソラさん」
ソラの右手を掴んだまま、振り返って可愛らしく微笑むサクラだったが――もう騙されてなるものか。
至近距離の笑顔に気を緩めそうになるのを必死に引き締め、ソラは反撃に出る。
「さすがに時間かかりすぎだと思われます」
が、なぜか下手だった。
「だってソラさん気に入った服ないみたいだしィ」
「私はもっと、普通の服がいいデス」
今まで見せられた服を思い返して、ソラは軽くめまいを感じた。
大人しい、ともすれば地味と言われるような格好しかしてこなかった自分が、あんなものを来て外は歩けまい。
確かに可愛いけど、けど、けど!
逆接を強調したくなる、そんな服ばかりだった。
「私みたいのは普通じゃないの?」
「えー…サクラちゃんの服はですね、オシャレすぎてどうやら私は受けつけないみたいなんですよ」
「じゃあソラさんの普通ってどんなの?」
「それは、例えば色は寒色系とか」
「さっきの店で薦めたあれはグレーだったわよ」
サクラの言うその服は、超ミニスカだった。
「スカートよりむしろズボン」
「それもさっきの店にあったじゃない」
ヘソが見えていたけどね、とソラは目を逸らす。
「露出度は少な目に」
「それはソラさん…可愛くないわよ」
可愛くないわよ、可愛くないわよ、可愛くないわよ――ソラの心の中で繰り返される言葉たち。
そうか、とここにきてようやくソラは気がついた。
もう根本的に、サクラとソラとでは、服に対する意識が違ったのだ。
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