時空の死神 | ナノ


▼ 3.新しい服 (4/11)

「――それで、ソラさんて、いつもどんな服装だったの?」

「えっと、わりと落ちついた感じが多かったかな。…あの、」

「それって、最初会ったときに着てたみたいな?」

「あれは学校の制服で私服じゃないんだ。それでサク…」

「へー、学校に制服なんてあるんだ!」

「うん、でね、」

「いいわね!私たちなんて中忍に昇格したときに、あのダサいベストもらうだけよ」

「サクラちゃん!!」

やや声を張り上げると、買い物モードに切り替わっていたサクラは、カカシを指していた指を空中で制止させたまま、ようやくソラの言葉を聞き入れてくれた。

「どうしたの、ソラさん」

「だからね、買い物は行くけど…服は買わない。ちょっとプレゼントをしたい人がいて、何を贈ればいいか分からないから、付き合って欲しいんだ」

「ソラさんが、プレゼント?」

「うん」

ソラはなるべく神妙にうなずいてみせた。
しかしソラがこの世界で特に深い関わりを持っているのは第七班くらいのもの。
確かにここ最近は打ち解けてきたけれど、それでも贈り物をするほどの間柄でもなければ、何か特別な出来事が控えているわけでもない。
ソラの言葉は買い物から逃げ出したいだけの言い訳に聞こえたのだろう。

「それって、誰に?」

サクラはソラを胡散臭く思ってか、十分な間をおいてから尋ねてきた。

「あの、火影様、なんだけどね」

「火影様!?」

ソラの返答に、ますます混乱したらしいサクラは、今度はなんでとばかりに目を丸くして驚いた。

――火影は、大きな存在だ。

人間業とは思えない忍術が当たり前にあるこの世界でも、カカシを警戒させたらしいソラの現れ方は異常だった
ここは平和ボケした日本ではない。
本来ならソラは怪しまれ、殺されても文句は言えない立場にあった。
それを救ったのが火影だ。

しかも殺すどころか、身寄りのないソラを保護し、この世界に居場所を与えてくれた。
おそらくは、初めに会ったときのイルカの意見こそが、一般的な里の人の総意だろう。
それにも関わらず、反対意見を押さえ込み、表立って不満をぶつけられないのは、火影の発言力が大きい証拠だ。
この里が温厚な火影を頂点に統制されていたのは、ソラにとって幸いだった。

役にも立たない少女を気遣うだけでなく、第七班の任務同行にかこつけて、少しばかりだがお金も渡してくれる。
しかし実際は、忍でないソラが任務に同行しているため、報酬は通常より低めに設定されているという。
ソラはそのことをカカシから聞いていた。
あの馬鹿正直なナルトが文句を言わないところを見ると、火影がお金を工面しているに違いない。

何かお礼をしなければ――申し訳なさすぎるし、気も晴れない。
このことに関してだけは、ソラも買い物が嫌いとは言っていられなかった。

「べつにいいけど…私だって何あげたら喜ぶとか、そんなの分からないわよ?」

「それでもいいの。一人じゃ不安だから、一緒に、ね?」

「分かったわ、じゃあ明日ね」

「うん、ありがとう」

ソラを気に掛けてくれているのは何も火影だけではない。
サクラだってそうに違いない。
ソラのために、ソラを思って、行動を起こしてくれた。
だから誘いを断ることで気を悪くされるかもしれないと、ソラは初め気掛かりに思っていた。
けれど、サクラは何が嬉しいのか、弾む足取りで駆け出した。

水面に反射した光が照り返す。
桃色の長い髪は、手入れが行き届いている。
ゆるい風が吹くと、天使の輪をきらめかせ、背中で軽やかに揺れていた。
まるでサクラが本物の天使であるかのように思えて、しばし。
そうか髪の色が珍しいからなのかと一人納得した。

そのとき、ソラは人知れず感動していた。
サクラの表面的な可愛さではなく、その奥に潜む優しさに。
同年代の女の子から押しつけがましくない施しを受けたのは、本当に久しぶりのことだった。

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