▼ 0.プロローグ (3/3)
背伸びして大人向けの棚から読みたい本を選ぶソラには、それが理解できなかった。
子どもにおあつらえ向きだと、大人にそう思われて与えられた物語で、どうして満足できるのだろう。
しかしなんの疑問も持たず大人の策略に引っ掛かる子どもが多い事実も認めざるをえない。
そういった意味で、敦史は典型的な現代っ子だ。
今も先読みできそうな展開に、表情をくるくる変え素直に楽しんでいる。
こうも純粋な面を見せつけられると、ソラは落ち着いていられない。
自分が失ってしまった何かを惜しむ気持ちが、つい意地の悪い言葉を投げかける。
「こんなの、どうせ最後にナルトが火影になって終わるんでしょ。分かってるなら見なくていいじゃん」
コマーシャルに入ったところで、敦史がソラを見遣った。
「お前アニメを完全に馬鹿にしてんのな。子どもっぽい、ってか?」
「悪い?」
「いや、べつに。人の意見はそれぞれだから。たださー」
「なに」
物言いたげな敦史を促す。
「今日バスケの仮入行ったら、お前のクラスの女子が、同じこと言ってたよ」
「……そう」
言葉少なで状況を理解してしまえるのが悲しく、ソラは気をまぎらわせるように物語に没頭した。
アニメではカカシ率いる第七班が敵と交戦中らしく、そのうち向かい合った二人が同時に同じ動きをし始めた。
術を発動させるために必要な印を組むという動作だ。
隣で敦史も真似しようと必死だが、からきし上手くいっていない。
「敦史は忍に向いてないね」
今度のコメントには、角のない言葉が返ってくる。
「いや、これ意外と難しいから。ソラでも無理だって」
「でもさ、要は十二支ごとに手の形が決まってて、それの組み合わせでしょ?そんなの形覚えれば楽勝じゃん」
「だって早ぇーんだもん。見て見ろよ、このスピード!」
ムキになって画面を指さす敦史に、ソラは呆れて溜め息をつく。
この幼なじみは、自分が録画したビデオを見ていることを失念しているらしい。
しかし先ほど一本取られた身としては、それならスローモーションで見れば――と優しく教えてあげる気にもなれなかったのだろう。
だからか、ソラは代わりにこう言った。
「見てなよ、次出てくる技、私が完璧に再現してあげるから!」
その場でさっと立ち上がり、敦史に向かってにっと笑う。
急に立ち上がった反動で、スカートが微かに揺れた。
窓はさっき閉めたはずなのに、心なしか冷たい風を感じる。
敦史のほうを見ると、やってみろとばかりに笑い返してきていた。
時間的に物語も終盤か。
ついさっき、カカシと競り合い派手な術を使っていた半裸男が、謎の人物の襲撃によりあっさりやられた。
そしてカカシとのやり取りの末に、その謎の人物が死体を抱えると、
――それでは失礼します。
そう言って、片手をすっと動かす。
人差し指と中指をそろえて立て、他の指を握りこんだだけの簡単な印を、その人物に合わせ、ソラも構えた。
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