▼ 2.出会い-後編- (4/10)
***
この世界に来てから、一週間。
いや、気絶して眠っていた時間も含めると、本当はもっと経っているのかもしれない。
正確な経過は分からないが、ソラには一つだけ確信していることがあった。
おそらくこれから、この世界に滞在した日数を数える気にもならないような時間を、ここで過ごす。
そしてそれは一生かもしれない。
木ノ葉に来て最初に言葉を交わしたのは、紅というくノ一だった。
カカシと同じ上忍だとは後に知った。
ソラが仮に漫画、あるいはアニメの世界に入り込んだとして、まだ登場していないキャラクターと出会ってしまったわけだ。
それはソラの妄想の産物か、近いうちに登場する予定の人だったのか――それすら知る術もない。
ただこれが夢でないのは認めていた。
その証拠となるかは分からないが、サスケにやられたらしい頭が今でも痛む。
初めは、現実に嫌気がさした自分が、無意識に精神世界を創り、そこに逃げ込んだのかと思った。
だがそう簡単にはいかないようだった。
痛みも感じればお腹も空くし、トイレにだって行きたくなる。
まるで、身体ごとこの世界に来たように、何もかもがリアルに感じられた。
ソラは痛む頭を抱えこむ。
――夢なら、覚めてしまえばいいのに。
意思とは関係なく、頬を涙が伝う。
ここに来てからソラは泣いてばかりだ。
少し前までは、めったなことでは泣かなかったのに、気がつくと下ばかり向いている。
「引っ越しはすんだの?何か手伝うことはない?」
火影から居場所を与えられたあの日。
特に異常がなかったソラは、搬送された急患のためにすぐに病室を引き渡した。
それから身一つで新居に行き、翌日には必要最低限の物をサクラの付き添いで買い出しに行った。
ボロボロの制服を見て、つい最近、入学したばかりだったのにな、と何度も思った。
優柔不断なソラは借りるわけにもいかない下着以外は何も買わず、サクラのお古だという浴衣のような和服を譲ってもらった。
幸い和服を着なれないソラでも簡単に着こなせた。
食事の方はもらったお金を頼りに買い食いでしのいでいる。
「ありがとうございます、大丈夫です。荷物らしい荷物もありませんし…」
「そう?何かあったら言ってね。きっと力になるわ」
にっこりと微笑む紅の顔はソラの知る誰よりも整っていて、この世界に女優という職業がないことが惜しいくらいだった。
あの場にいた大人の女性が紅だけだったこともあり、紅はソラのことをよく気に掛けていた。
もちろん他の里の人たちもそうなのだろうが、カカシのように下手に知っている人に控えられていると、自分一人が違う世界にいることを思い知らされて、ソラはつらく感じた。
ナルトのこともそうだ。
主人公だからよけいに、受け入れることが難しかった。
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