▼ 2.出会い-前編- (14/15)
***
静かに話し合う場を設けられ、ソラは火影に色々なことを聞かれた。
ソラの世界の在り方や、この世界の知識について。
突拍子もない作り話と思われても仕方ないほど、異なる進化を遂げた二つの世界。
言葉にするのは簡単でもその事実を受け入れるのはまた別問題で、厳しい表情で耳を傾けていた火影に、ソラはまずこの里の禁忌を口にした。
「うずまきナルトの中には、九尾が封印されているんですよね」
「おぬし、なぜそれを…」
小娘のソラが知る由もない里の機密情報。
なぜそれを知っているのか、それを切り口に、二つの世界の関係性、そしてソラの置かれている立場について説明した。
しかし突き詰めて説明するためには、ややこしい問題があった。
漫画はともかく、アニメの話になると、テレビが一般家庭に普及しており、更には子ども向けの番組が作成されていることから教えなければならなかった。
そして長い長い話の末に、これから一番大事なことを聞くと前置きしてから、火影はこう言った。
「おぬし、この木ノ葉を攻める気はないじゃろうな?」
「はい」
そんな力、ソラにあるわけがなかった。
「そしてこの世界に身寄りはない」
「はい」
「帰る方法も分からない」
「…はい」
答えながら、漠然とした恐怖がソラを襲う。
この世界に来たと分かってから、ソラは初めて孤独を感じていた。
ナルト相手にあれだけまくし立てられた元気は、もうどこを探しても見つからない。
何をわめこうと、結局この世界で私は独り。
これが運命から見放された者のたどる末路なのかもしれない――そうやって感傷に浸りすぎていたせいだろうか。
「どうじゃ、帰る方法が見つかるまで、木ノ葉に住まんか?」
「…はい?」
初めは火影の言葉が、上手く飲み込めなかった。
「元の世界に帰れない今、ひとまずの間はこちらの世界に滞在するのじゃろう。その間、木ノ葉に住まんか?」
「え、いてもいいんですか?」
「事情が事情じゃし、おそらく原因はこちらの世界にある。念のためもう一度確認するが、お主の世界では、時空間忍術はないんじゃな?」
「それは、はい、ありません。忍者もいません」
「それなら問題あるまい」
火影は腰掛けていた椅子から立ち上がると、ベッドの脇まで近づき、ぐいと手を伸ばしてきた。
そしてその手がソラの頭に触れたとき、
「ソラも今日から、わしの家族じゃ」
そう言って、しわだらけの顔で微笑んでくれた。
ソラには、元いた世界に、いい思い出なんて何もなかった。
消えてなくなりたいとすら願っていた。
それでも新たな土地で人生をやり直さなければならないかと思うと、自分でも驚くほど執着した。
この先、自分がどうなるのか、また嫌われるために生きていくのか。
その苦痛を想像し、やけになっていた。
しかしこの人は、この人だけは、ソラを受け入れてくれた。
それが、今のソラのすべてだった。
温かな涙を流すのは心地好いと、素直にそう思った。
しかし変に心配されるのが申し訳なくて、ブラウスの裾で思い切り目をこする。
きっちり両目の間隔だけ開いて出来た小さな染みを見て、ソラは不器用な笑みをこぼした。
「――紅はおるか」
「はい」
仕事用に声音を使い分けた火影が、廊下に向かって呼び掛ける。
するとドアの向こうに人影が現れた。
「すまんが、下忍の担当上忍、それとアカデミー教師代表で、イルカを連れてきてくれんかの」
「御意」
返事と共に、影は一瞬で消えた。
次に火影は窓際に寄り、外に向かって手招きをした。
どうやらこの病室に、これから人が集まってくるらしい。
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