▼ 2.出会い-前編- (13/15)
***
紅に報告を頼んではいたが、まさかこうも早く到着するとはカカシも思っていなかった。
「火影様、わざわざすみません。どうもオレだけじゃ対処できないもので…」
ナルトを摘まんだまま非礼を詫びると、火影は神妙な顔つきでうなずいてから、ゆっくりソラに向き直った。
燻らせた煙越しに二人の視線が合う。
「おぬしが異世界から来たという者か?」
さっきのナルトとのやり取りから、ソラは激しやすい子だと分かった。
てっきり火影にもあの調子で喰いかかるかと思ったが、静かに一礼するだけだった。
どうやら礼儀はわきまえてくれたようだ。
なるほど、オレたちの世界を知っているだけある、とカカシは安堵した。
「して、異世界からやって来たのは分かったのじゃが、帰り方は分かるのかの」
「…分かりません」
「しかし帰る気はあるのじゃろう」
「それはもちろん、今すぐにでも」
「どうやって来たか、その記憶は」
「…残念ながら……」
頭を打ったらしく、こちらの世界に来てからの記憶はこの病室からだとソラは告げた。
それを聞くと、決まり悪くなったのかサスケはそっぽを向き、その隣でサクラがそわそわしだした。
そんな二人を手招きで呼ぶ。
「火影様も話があるだろう。しばらく外に出てるぞ」
素直に従う二人を連れて一度院内から出ると、迷わず裏庭に続く道を行った。
そこからは火影様とソラがいる部屋が見上げられる。
部屋の中の様子までは窺えないが、万一のときはすぐに駆けつけられる距離だ。
ちょうどよく備え付けられていたベンチにナルトをぽんと置くと、もう暴れる気力もないのか、ナルトはされるがままになっていた。
「ナルト、どうかしたの?」
移動してからしばらくもすると、大人しいナルトが珍しいのか、サクラが積極的に話し掛け始めた。
しかしナルトは無反応。
サスケは木にもたれ気のない素振りで二階を見上げているが、しっかり聞き耳だけは立てていた。
「ナールートー?」
身を乗り出したサクラはナルトの頬をぎゅっと摘んだ。
「いはいっへはよ、はふはひゃん」
「なんだ、意識はあるのね」
ぱっと手が放されると、ナルトの頬が微妙に赤くなっている。
それがよほど痛かったらしい。
その頬をさすりながらナルトがカカシを見上げると、率直に聞いてきた。
「カカシ先生、あいつ、本当にこの世界の奴じゃねーの?」
言い合う相手を奪われたナルトの声には元気がなく、暴れた気力ごとあの部屋に忘れてきてしまったようだった。
「だからそう言ってるだろ」
「じゃあさ、なんでオレたちのこと、知ってるんだ?主要人物って、一体どういうことだってばよ」
「詳しいことはまだ分からない。ただ、聞いた話が正しければ、あの子の世界じゃ、オレたちの世界はその世界の創作物になっているらしい」
「へー…。で、それってどういうこと?」
「ま、簡単に言うとだ」
納得しかねているナルトのために、カカシはさっと愛読書を取り出す。
「あの子からすりゃ、オレたちはこのイチャイチャパラダイスの登場人物、ってとこだな」
「先生、真面目な話のとき、それ禁止!」
年齢制限を表すマークを目に留めた途端、サクラが目を三角に吊り上げた。
思春期の女の子は扱いが難しい。
「あいつにとって、オレたちは、ただの見せ物、か」
そうつぶやいたのはサスケだった。
「あいつは、オレたちが操り人形だって言った…それじゃあ、いくら頑張っても、落ちこぼれは落ちこぼれのまま…。そんなのって、ありかよ……」
そしてナルトの言葉にはサクラもうつむいた。
サスケをちらちら盗み見しながら、思うことがあるのだろう。
「ま、そうなっちゃうんだろうな」
上司として、掛けるべき言葉は他にいくらでもあっただろう。
ナルトたちはいずれカカシたちの世代を引き継ぐ、将来有望な里の希望たちだ。
そんなことないと、本当ならすぐさま否定してやりたい気持ちもあった。
だがソラの心に触れてしまったのも、またカカシだった。
この世界の誰よりも先にあの子の抱える事情を信じさせられた。
だからそんなカカシが安易に慰めることははばかられた。
視界の端に動きがあり、視線をあげる。
気がつけば火影は窓際に寄っていた。
そして手招きをしている。
カカシがそれに気づいたのを知ると、次にサスケとサクラ、そしてナルトを順に指さした。
全員で来い、の合図だった。
prev / next
←back