▼ 2.出会い-前編- (10/15)
この場にいた全員の名前を当てた少女は、自分に関心が示されているとは思っていないのか、なかなか名前を告げようとしなかった。
カカシは急かす気がないようで、サクラもサスケも、事情を知ってるのか、黙ったまま待っている。
「それでそれで?カカシ先生、こいつってば、誰だってばよ?」
「ん、この子か?」
たまりかねたナルトがそう聞けば、カカシは少女をちらりと見遣った。
ナルトはうんうんと首肯する。
「この子は葉山ソラ。離れた場所から来たばかりで色々あってな、今里の忍が交代で面倒を見ている」
「離れた場所?それって里の外?」
「ああ、そうだな。オレも行ったことがないくらい遠く、だろうな」
カカシも正確には把握していないせいで、曖昧な説明だけで言葉を濁らせた。
しかしナルトはそんな複雑な事情にも気づかず、ただベッドの上の少女を羨ましいと思った。
ナルトは生まれてから里の外に出たことがない。
保護者がいないから、用もないのに出られない。
だが同じ年頃に見えるこの少女は、自分が将来叶えようとしているささやかな楽しみを、もう味わっている。
もしそれがナルト自身だったら、どんなにはしゃいでいたか。
だからこそ、ソラと紹介された少女が涙を見せた理由が、ナルトにはますます分からなかった。
そこまで考えて、あれ、と今度はべつのことが気に掛かる。
「でもそしたら、ソラはなんでオレたちの名前知ってたんだってばよ」
確かにナルトが本当に火影であれば、他国まで名前が知れ渡るのも理解できる。
しかし今は下忍になったばかりだ。
外から来た客に早々名前を覚えられるほど、最近は派手な悪戯もしていない。
すると、黙ってばかりだて思っていた本人から手短に答えが返ってきた。
「だって、みんな、主要人物だから」
ソラはそれだけ言うとまた口を閉ざす。
その意味がよく分からず、もう一度聞き直そうとしたところで、ナルト、とカカシから声が掛かった。
カカシは隠れて見えないその口で、重々しく告げた。
「ソラは、異世界から来たんだよ」
なんて突飛なことを言い出すのだろう。
ぽかんとしていたナルトは、ふいに笑いを噛み殺した。
さてはカカシ先生、これも修行だな?
昨日の演習、すきっ腹で戦わされた印象が強く残っていたナルトは、真面目な顔をしてとんちんかんなことを言った上司を見て直感的にそう考えた。
あの演習で言われたことはなんだったか。
ただ真面目にルールを守っていたのでは合格出来なかったあの試験の意図。
それは――
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