▼ 7.不可避の選択 (9/16)
***
シャリンガン――。
敵の口から聞き慣れない単語が出た瞬間、隣人の緊張感が一気に高まった。
サスケには思い当たる節があるのだろう。
しかしサクラにはそれが何を指すのかまったく見当がつかなかった。
Cランク任務で忍者同士の対決なんて有り得ない。
サクラはその有り得ない状況を受け入れたつもりでいた。
しかしこれはもう覚悟がどうという範囲を越えている。
非戦闘要員が全体の三分の一を占め、しかも戦闘要員の半分以上がまだ下忍になったばかりのド素人。
ナンバー1ルーキーのサスケがいるとはいえ、ナルトの存在も差し引くと、戦力はほぼないと考えた方がいい。
もちろんサクラ自身も忍相手では戦力外もいいところだ。
明らかにこちらの分が悪い。
「お前ら、卍の陣だ。タズナさんを守れ。お前たちは戦いに加わるな」
「え?」
「それがここでのチームワークだ」
カカシの指示が出ると、敵もわずかに顔をしかめた。
そう、それが今とれる最善の策。
下忍の三人はまだ参戦できるレベルではない。
だからその分、本来の任務であるタズナの護衛に徹するべきだ。
たったそれだけ、それだけのことだと言い聞かせても、サクラは恐怖を拭えないでいた。
膨張する不安は自信をも飲み込んでいく。
こうなってしまうと、ソラの方がよほど落ち着いて見えてしまう。
それは彼女が未来を知っているからというだけではない。
ハッピーエンドが約束された物語だとしても、主人公がピンチになれば一緒に慌てるものだ。
しかしソラは己の立ち位置をしっかり把握していた。
カカシの指示がある前から、すでにタズナの横にぴたりとついていた。
揺るぎない自信が迷いのない行動を生んでいる。
そしてそれは――カカシの強さを信じているということだ。
「オレと戦え」
手をかけていた額当てがずらされた。
隠されていたカカシの素肌に見える大きな古傷。
だがそれよりも注意を引くのは、ゆっくりと開かれていくその左眼だ。
異彩を放つその瞳は、深い紅。
「ほーお、噂に聞く写輪眼を、さっそく拝めるとは。光栄だねェ」
未知数の強さを秘めたその瞳に触発され、敵の表情も好戦的なものへと変わる。
そして静かに殺気が広がっていく――。
prev / next
←back