▼ 7.不可避の選択 (6/16)
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「――もうすぐ到着だ」
船頭がそう言う頃には、霧の中でぼんやりしていた橋がもうすぐそこまで迫っていた。
近くで見るとやはり大きい。
海面からのぞく支柱はどれも太く、打ち寄せる波を物ともせず砕き、地についた迫力を感じさせた。
「タズナ、どうやらここまでは気づかれてないようだが…」
念のため、上陸までは地下水道を通ることになった。
建設中の橋と垂直に交わる水道橋の下をくぐり、天井につけられた電球をたよりに進んでいく。
数分もしないうちに出口の方から光が差し込む。
暗がりを抜けると、霧は晴れていた。
「へーーー」
ナルトのその声には、素直に感嘆の気持ちが表れていた。
ゆらめく青にそよぐ緑。
海に浮かぶ森のように群生したマングローブは、お忍びの舟を人目から覆い隠してくれた。
まだタズナの家がある集落まで距離はあるものの、水辺には仕事場らしい小屋がいくつも建てられている。
水と共に生きる波の国では当たり前の光景らしい。
それを木ノ葉出身の一同は物珍しそうに、敵を警戒するというより景色を楽しむように周囲を見渡していた。
気がつくと、舟はもう桟橋に。
乗り込んだ順番に立ち上がっていく。
久しぶりに自分の足で立つ感覚に、ナルトは俄然やる気がわいていた。
ソラは正座で足がしびれていたのか、カカシに引っ張られるようにして立ち上がり、ようやく全員が舟をおり終えた。
「オレはここまでだ。それじゃあ」
「ああ超悪かったな」
「気ィつけろ」
エンジンがかかった舟は見る間に点になる。
それを最後まで見届けると、気持ちを切り替えたタズナが張り切った声を出した。
「よし、ワシを家まで無事、送り届けてくれよ」
「はい、はい」
カカシが気の抜けた返事をして、一行は森の中へと足を踏み入れた。
それから間もなくのことだった。
意気揚々と先陣を切るナルトをサスケが追い越した。
ポケットに手を突っ込み歩くサスケのことだ。
単に到着を急いだだけで深い考えはなかったのだろうが、先の戦闘で見せ場のなかったナルトはそれを挑発と受け取った。
…もうこいつにはいいとこやらねーぞ?
急に皆の前に踊り出たナルトが、大げさに左右の確認を行う。
勝手に張り切り出す彼見ても誰も本気にはしていない様子だった。
が、刃物を持ち出されたのでは話が別だ。
「そこかぁーーーっ!!」
不意に何かに感づいたかのように、ナルトは草むらにクナイを放った。
背後の人々が息を呑む。
しかし動きを止めて様子を見るも、草むらからはなんの物音もしない。
やがてゆっくりと立ち上がったナルトは、一仕事終えたと言わんばかりに額当てをきらりとさせてこう言った。
「フ…なんだネズミか」
その背中に罵声が浴びせられる。
「て、なにカッコつけてんの!!そんなとこ始めっから何もいないわよ!」
「頼むからナルト!やたらめったらクナイを使うな…マジでアブナイ!!」
「ガキィ!まぎらわしいことすんじゃねェ!!」
しかし感心どころか評価を落としただけと気がつかないナルトは、未だ衰えないやる気を周囲にまき散らしていた。
「ん、あそこに人影が。ん、いや、こっちかァ?……そこ!!」
そして再びクナイを投げたナルトに、すかさずツッコミが入る。
「だからやめろーーー!!」
敵襲を恐れるサクラの一撃には恨みがこもっていた。
思わず頭を押さえるナルトが、それでも懲りずに言い訳を始める。
「ホ…ホントに誰かがこっちをずっと狙ってたんだってはよォ」
「はい、ウソ!あんたいい加減にしなさいよ?もうっ」
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