▼ 7.不可避の選択 (5/16)
***
サクラの、ソラに送る視線が一瞬強くなった。
タズナを見ていると見せかけて、その手前にいるソラの背中を凝視していることをカカシは見抜いていた。
むしろ隠す気はないようだった。
微動だにしないソラを飽きもせず眺め、様子を窺い、一瞬睨みつけたと思えば、途端興味を失ったかのように視線を霧の向こうにやる。
オールが水面を掻き、舟は進んでいく。
サクラが見るのは、木ノ葉からたどってきた道のり。
霧の向こうに遠のいていく、安全圏――。
やがて静かに息をつくサクラ。
再び戻された顔には、今までなかった覇気を感じた。
そして意外なことに、それに安心している自分がいることにカカシは気がついた。
担当上忍という立場からすれば、三人が下忍に成り立てなのと同じで、カカシも新米だ。
サクラが腹をくくってくれたのであれば心の荷はひとつ下りたことになる。
「しかし分かりませんねぇ…相手は忍すら使う危険な相手。なぜそれを隠して依頼されたのですか?」
「波の国は、超貧しい国で、大名すら金を持っていない。もちろんワシにも金はない。高額なBランク以上の任務を依頼するような金はない。
まー、お前らが任務をワシの上陸と同時に取りやめれば、ワシは確実に殺されるじゃろう。家にたどり着くまでの間にな」
なんてったって、
「なーに気にすることはない」
この話の流れ、
「私が死んでも八歳になる可愛い孫が泣いて泣いて、泣きまくるだけじゃあ!それにワシの娘も木ノ葉の忍者を一生恨んで恨んで恨みまくって、寂しく生きていくだけじゃあ!いやァなに、お前たちのせいじゃない」
どう頑張ってもタズナのペースに持っていかれそうな予感がする。
カカシが頼りにしているのは何もサスケばかりではない。
何をしでかすか予測不可能のナルトも。
この世界の未来を知るソラも。
そしてサクラも――サスケに向ける情熱を少しでも戦闘力に変換してくれれば、案外ナルトより強いかもしれない。
やるかやらないか、その選択の良し悪しを問うつもりはない。
ただ、サクラがどちらを選んだにせよ、一度決心を固めてしまいさえすれば、中途半端に物事に取り組むよりはいい結果がもたらされるはずだ。
そしてサクラはサクラなりに悩み、自ら“やる”を選んだ。
「うーん」
言いながら、カカシはこめかみに手を当てた。
そうして作った死角を利用し、さりげなくソラの様子を探る。
変化は、ない。
それを確認してから、最後の決断を下す。
「ま、仕方ないですね。護衛を続けましょう」
その言葉と共にカカシは誓った。
何があってもこいつらはオレが守る、と。
「おお!それはありがたい」
勝った、とばかりに小さくピースサインをするタズナ。
その分かりやすい態度に、思わず苦笑を浮かべる。
例えそれが自分の首をしめるような物であっても、やるべきことも明確になった。
そのおかげか、乗船時にあったお互いを探るようなよそよそしい雰囲気は和らいだようだった。
そしてこのときはまだ――カカシは自分の選択に迷いを感じてはいなかった。
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