▼ 7.不可避の選択 (3/16)
「あんたらの言う通り、おそらくこの仕事は任務外じゃろう。実はワシは超恐ろしい男に命を狙われておる」
「超恐ろしい男?」
「ああ…」
「誰です?」
「あんたらも、名前ぐらい聞いたことがあるじゃろう。海運会社の大富豪、ガトーという男じゃ」
「え、ガトーって、あのガトーカンパニーの?世界有数のお金持ちと言われる…」
ここで不用意に騒いで敵に見つかるわけにはいかない。
声こそ潜められていたが、カカシの目は見開かれている。
タズナが口にした人物はよほど有名らしい。
しかし下忍になったばかりの三人には馴染みのない名前だ。
それはいったい誰なのだろう。
疑問に思ったナルトがいつもの軽い調子で尋ねようとしたときだった。
その雰囲気を察したサクラが、勢いよく振り返る。
不意打ちで至近距離から睨まれたナルトは瞬時に空気を読んだ。
ナルトのペースに合わせ話を遮られたのでは、またろくに情報が得られない。
先ほどはナルトの気迫に気圧され、驚いた拍子に任務続行を黙認したサクラだったが――思い返せば、火影から任務を受けたときにはすでにこの災難は始まっていた。
もしあのとき自分が冷静だったら、とサクラは考えていた。
ソラとカカシの不穏な態度に気を取られず、ナルトの突っかかりを押さえ、きちんとタズナから任務内容を聞き出していたら。
もしかしたら、タズナの嘘を見抜けたかもしれない。
そうすれば任務を適正なランクに変更する等、穏便な対応がされたはずだ。
その機会を逸したのは、まだサクラが自分を下忍だと思っていたからだ。
任務は火影から与えられるもので、担当上忍が手助けしてくれるもので、見合ったレベルの任務しか振り分けられない。
その安心感。
いいや違う、甘えだ。
確かにここで引き返すのは弱腰や薄情に思われてしまうだろう。
しかし今この瞬間、タズナとの出会いまで戻れたらと思うように、遠からぬ未来、今この瞬間まで戻れたらと思うかも知れない。
引き返すのに遅いなんてことはない。
しかしそれはサクラの立場で判断できることではない。
できるとしたら、カカシへの提案だ。
そのためにはまず、情報を集めなければならない。
必至に耳を傾けるサクラには気づかず、タズナはカカシとの対話を続けていた。
先ほど口にしたガトーという男は、表向きは海運会社社長だという。
しかし裏ではギャングや忍を使い、麻薬や金製品の密売、果ては企業や国の乗っ取りといった、あくどい商売を生業としている。
「一年ほど前じゃ。そんな奴が、波の国に来たのは――」
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