青学との合同練習。今は試合の真っ最中で、俺の相手はご存じ生意気越前リョーマ。指名したのは俺だ。負けっぱなしなんて俺のプライドが許さない。全国大会決勝を思い出させるかのような互角の(不本意だ)ラリーが続き、無我の境地を発動し続ける越前リョーマに俺も全力で当たった。ゲームも中盤、3-3。越前リョーマが俺を挑発するかのようにラケットを向けてきた。

「アンタ、こないだの試合で散々なことしてくれたよね」

そう言ってアメリカ帰りの天才ルーキーは不敵に笑った。恐らく彼が言っている散々なこと、とは俺が試合中に五感を奪ったことについてだろう。

「ハッ、五感を奪われるほうが悪…」
「その言葉そっくりアンタに返すよ!」

そう言って越前リョーマがサーブを打つ。その言葉、そっくり返す?ま、まさか!コイツ…!

「俺の五感を奪おうとは良い度胸じゃないか!」
「気付くの遅いんじゃない?もう奪ってるよ!」

しかし俺の体に変化は微塵も起こっていない。腕をつねればちゃんと痛いし、匂いだって感じる。目だって見えるし耳だって聞こえる。ラリーだって普通に続けられる。

「つまらないハッタリはやめることだな!」
「おかしいな?味、感じないはずだけど」

五感とは、視・聴・嗅・味・触の五つの感覚のことを示す。まさかコイツ、テニスとは最も関係ないであろう味覚から奪ったとでも言うのか…!意味ねーだろそれ!

「そろそろ二つ目!」
「なっ」

ようやく体に明らかな変化を感じ始めた。確かめるべくすんすん、とハッキリ嗅いでみる。やっぱり、臭いを感じない!

「なんで味覚や嗅覚から奪ってるんだよ!」
「そのほうが楽しそうじゃん?」
「どこが!」
「仕返しなんてそんなもんでしょ」

まさに外道。
コイツ…五感を奪うのを楽しんでやがる…!そうとなれば俺だって五感を奪い返して…!

「幸村くん、鼻血鼻血!」

柳生が遠くで手をぶんぶんと振っている。はな、ぢ?バ、バカな…美形は鼻血なんて出さないはずだ…!しかし出ているものは出ているので慌てて拭うと、目の前が真っ暗になった。コ、コレは…視覚が奪われ…!

「アンタ、美形じゃないんじゃないの?ま、この声も聞こえてないだろうけどね」

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