テニスコートが、グラウンドになっていた。おかしい、こんなところで俺が迷子になるはずがない。間違いなくここはテニスコートであるはずなのだ。だってここにいる連中は、間違いなくテニス部の部員。ただし、ユニフォームに背番号があり何故かボールを蹴っている。具体的に言えば、サッカーをしている。頭が痛い。何だ、何なんだ、今度は一体何なんだ!とりあえず、話が通じそうな…と探していると、運良く一人でみんなのサッカーを眺めている柳を発見した。

「柳、みんな一体何をしているんだい」
「見て分からないのか、精市」
「うん、ぜんぜんわかんない」
「サッカーだ、今日は帝国学園との練習試合だろう」
「え?」

帝国学園?氷帝学園の間違えじゃないのか?しかし柳がそんな間違いをするとは思えない。と、いうか帝国学園なんて聞いたことないぞ!俺が人知れず冷や汗を流していると、柳が首を傾げて続けた。

「練習試合で負けると、俺たちは廃部になるのだろう?」
「へー廃部…、ってそんなバカな!」

理解が追いつかない。なんだその話。全く身に覚えがない!本当に頭が痛い。意味わかんねーよ!と叫びたい衝動を抑えてグラウンドをもう一度見ても、みんなが真剣にサッカーをしているだけだった。

「いくぜよ柳生、アイスグランド…!」
「負けませんよ仁王君!あっ」
「パスじゃ真田!」
「フハハハ食らええええファイアトルネードオオオ」
「ジャッカルウウウ!」
「任せろ!ウオオオオゴッドハンドオオオオ!」

ってかこれサッカー?俺がテニスばっかりやってる間にサッカーってこんなすごいことになってたの?炎あがってるけど。手、でかくなってるけど。あっ、ゴールした。え、キーパーのジャッカル吹き飛ばされてるけど。ゴールキーパーごとゴールするの?サッカーってそんな過激な球技だった?

「ククク…さすが立海大付属…」

俺が何も理解出来ないまま棒立ちしていると、隣にゴーグルにドレッド、さらにマントを羽織ったやけに等身の短い男がニタァと笑っていた。なんという個性の固まりだ。ん?待てよ、マントって俺とキャラ被ってないか?羽織ってるあたりが…俺もジャージ羽織ってるし。三つも特徴あるんならマント外してくれないかな…って、待て。それ以前に誰だコイツ!

「さあ、試合を始めよう」
「ちょっと待て」
「なんだ?」

ニタァと笑ったまま、悪い顔で男が言い出したので俺は慌てて止めた。

「俺たちは、テニス部だ」
「何を言っているんだ、サッカー部だろう?」
「いや、違う」
「なら、アレは何だ?」

そう言って男はグラウンドを指さす。

「イリュージョンボール!ヒャッホウ天才的ィ!」
「ヘッヘッヘ…そんなこと言ってられるのは今の内ッスよ丸井先輩、ジャッジスルー!」
「ゲ、赤也それは反則だろぃ!」

ギャイギャイ言いながら行っているのは間違いなくサッカーだ。コレをテニスだと言うほうがどうにかしている。

「ククク…今更怖じ気ついたのか?」

怖じ気つくとかそういう問題じゃない。だって俺たちはテニス部員で、サッカー部員ではない。テニスの練習試合ならまだしも、サッカーなんててんで素人であって…しかしそんな挑発を受けて黙っている訳にもいかない。廃部になるなんて話もある訳だし。どうする、どうすればいい!

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