「私、そんな上品にそ…する人初めて見ました…!」
「そ、そうですか?ふ、ふふ。まあ当然ですね」
「ぶっ」
「?」
「い、いえ何でも。えーと…、もっと、観月さんの…ぶ見たいな、なんて」

俺がテニス部のコートに行くと、見知らぬ女が観月と楽しそうに話をしていた。いったいどこの誰だろうか、観月が連れてきたのだろうか?

「観月」
「あら、部長。今日は早かったですね」

誤解のないように言っておくが、いつもは遅刻をしているだとかそういうわけではない。ただ時々ぼんやりしていると部活の時間になっていたりするだけであって。

「まあな。で、誰だ?」

「いえ、私は名乗るほどの者ではありません。ではさようなら」
「えっ、も、もう帰ってしまうんですか?」

この女、名も名乗らずに消えるつもりらしい。どうやら部外者だったようだ。そうと決まれば特に興味はないが、いや、でも名前くらいは教えてもらっても良いじゃないか。

「…欲を言えばまだまだいたいですが……、あ、そうですね、私はどちらかと言えば今度みなさんで、…げぶをする姿を見た…、いえ、これは私の我侭ですね」
「そんなことはないですよ!」
「そうですか、それでは楽しみにしてます」

一つ小さく頭を下げると、女は本当に消えてしまった。あっという間すぎて特に感想という感想もないほどだし、ああやっぱり名前を聞くほどでもなかったな、とさっぱりした気持ちのほうが強かった。

さて、そうとなればいつも通り部活を始めるか。そう思って観月を見るとやけにきらきらした目で見られた。

「今の、聞きました?礼子さん、私たちみんなでやってる姿が見たいって言ってました。部長、練習しましょう」

「ん?何をだ?」

「ふふ、良いですか、1回しかやりませんからね」
「ああ」

観月は二コリ、と笑うとその笑顔のまま両手を宙に持って行った。
そして、こう言ったのだった。

「 いいぜ ヘ(^o^)ヘ
        |∧
        /
 てめえが
 何でも思い通りに
 出来るってなら
          /
       (^o^)/
      /( )
     / / >
 
    (^o^) 三
    (\\ 三
    < \ 三
 `\
 (/o^)
 ( / まずは
 /く そのふざけた
    幻想をぶち殺す」
「…」
「どうです?溢れる気品…、この気品は私にしか表現出来ないって礼子さんが」

観月のネジが2本、いや3本飛んだのは見えた。それ以外は何一つ理解できん。だが、なんだろうか、このむずむずする気持ちは。

「観月」
「なんです?」
「俺にも教えてくれ!」
「…ええ!もちろんです!」



「ま、まさかこんな早く別の人にレクチャーするなんて…ぶっ、くふ…っ」
「テニス部に何か用ですか?」

帰りのSTが長引き、いつもより少し遅く部室に行くと、外で女の人がうずくまっていた。
何があったのだろうかと心配になり、声をかけてみると、女の人は目に涙を浮かべ、お腹を押さえていた。もしかして体調でも悪いんだろうか?

「い、いえ、特に用は無くて…、くふっあははは!」
「そ、それなら良いんですけど」

急に笑い出すから驚いた。一体何なんだこの人は。

「ところで少年はテニス部?」
「え、あ、はい!」
「お名前は?」
「裕太」
「ふーん、裕太君。ま、頑張って…あはっはは!」
「あっ、あなたは」
「財前礼子。あなたの、健闘を祈る…ぶっ…!」

思わず流れで名前を教えてしまったが、あの人、財前礼子はいったい何をやりたかったんだろうか。さっそうと消えてしまった。
まあ見たこともない顔だったし、きっともう出会うことはないだろう。それよりも今は遅れてしまった部活について―――、ガチャリとドアノブを回すとそこには大きな叫び声と共に妙なポーズを取っている部長と観月さんがいた。

「その幻想を!ぶち殺す!!」
「いえ、だから最後にびっくりマークはいらないですって!」

ああ、俺疲れてるのかも。さっきの、財前礼子と名乗る女も実は幻覚で、だから、これは幻覚に違いない!

「おや、裕太君いいところに。あなたにも教えて差し上げます!」

残念なことに、現実だった。