暗闇の中を、歩く。

また負けるのか?全国決勝、あの時のように。そんなの嫌だ負けたくない…!どうしてこんなに苦しいんだ、どうしてこんなに辛いんだ…!
…テニスって、こんなに辛かったっけ?

いや、違う。俺はテニスが、そう、テニスが…!

そうだ、答えは明白。その答えを叫ぼうとしたその時、真っ暗な思考の中、俺の脳に直接女の声が響いた。

「ねえ幸村。テニス、楽しい?」

その声は紛れもなく俺があらゆる意味でこの世で一番聞きたくない声であり、思わず俺は叫んだ。

「楽しい訳ねーだろ!!テニスは、テニスは辛いもんなんだよ!」

世界が明るくなっていく。暗闇が晴れて、俺が最初に見たものは財前礼子が笑いを必死でこらえる顔だった。

「へ、へえ、そ、そブッ…へえ、そうなんだ」
「なんで財前礼子がここにいるんだよ!」
「幸村はテニス辛いの?」
「なんで財前礼子がここにいるんだよ!」

大事なことなので何度でも言おう、なんで財前礼子がここにいるんだよ!お、俺は、必死でテニスをしていたあのとき、テニスを心から楽しんだ越前リョーマに負けた。テニスを楽しめば、きっと新しい世界が見える。新しい一歩を踏み出せる。テニスをはじめて知ったあのときを思い出そう、と。そういう気持ちで練習に練習を重ねてきたはずだったのに…!

「ねえ、リョーマくんはどう?テニスどう?」
「テニスって、楽しいじゃん!」
「キャーリョーマくんカッコイイー!すっごい光ってる!も、もしかしてこれが天衣無縫の極み…!キャーリョーマくん超カッコイイー!
 50000hit
 ありがとうございました!


そして信じられないけれど、何事もなかったかのように試合は再開された。もう何が何だか分からない俺はそのままぐだぐだと負けた。
何なんだこの話…!結局俺の五感が奪われて、テニス辛いなんて(そりゃ全部が全部楽しい訳ではないけれど)言ってしまって、また負けて。俺だって「テニス?楽しいねフフ」くらい余裕を持って言うつもりだったのに!すさまじい敗北感ばかりが残っている。越前リョーマと財前礼子がハイタッチ。二人とも楽しそうで何よりだ、なんて思うわけなかった。どうすんだ、これ、収拾つかないだろ、ってか、

「何どさくさに紛れて祝ってんだよ!」
「えー何言ってんの幸村?ほら、50000hitって、めでたいじゃん!」
「だから祝えてねーよ!なんでこうなるんだよ!」




「あと勘違いしてるようだけど幸村は美形じゃないよ?」
「な、なん…だと…」
「そげぶにおける幸村はき、貴重なツッコミだよ!ぶっ、誇って!ほら誇って!」
「誇れる訳ねーだろ!じゃあ美形って一体誰を指すんだよ!」
「少なくとも、今までにパイはぶつけられてないはず」
「ぶつけられた奴のが少ねーだろ!」
「汚れたことがなく、椅子にされたこともない…」
「…納得いかないが、して、そげぶにおける美形とは?」
「ジャッカル!」
「えっ」