東京で暮らしてる従姉妹が久しぶりに遊びに来た。
と思ったらなんか失踪した。
しかし自分より歳が上の人間が失踪しても心配などする必要もないので、俺はまったく気になんてせずに部活動に勤しむことにした。
学校に着いたらなんか見覚えのある女がコートにおった。
つーか失踪中の従姉妹やった。何やっとるんあの女。

「あ、光じゃん。久しぶりっつか2年ぶりだっけ?あっはは耳に穴増えてる、なにそれ痛くないの?光ってばいつの間にマゾになったの?五輪?五輪でも作りたいの?」
「相変わらずうざいっスね礼子サン。再会の挨拶にちょっと耳たぶに穴でも開けます?」
「ちょっと私を光と一緒にしないでくれる?開花させようとしないでくれます?」
「あーもうあんたマジうざいっスわ。その性格どうにかして改善してくれません?相手すんの疲れるわ」
「何言ってんの、この私が年上の余裕を持ってわざわざ会話のレベルを光に合わせてやってるのに気付きなさい」
「あーはいはいどうもあざーっす」

相も変わらずこの従姉妹の相手は疲れる。精神年齢が低いンやろなきっと。俺より1歳年上なのに、なんつーか可哀想な頭してる従姉妹や。思わず従姉妹を哀れんだ瞳で見ていると、何を思ったのか「きゃっ」なんて頬染めてくねくねしだす。うん、キモいわ。

「つか何スか、何で学校来てんスかあんた。部外者は立ち入り禁止何スけど」
「ああ、光の従姉妹ですって言ったらなんか頭つんつんした人が入れてくれたけど」

副部長か。余計なことしよってからにホンマ。
どうにかして従姉妹を追い出そうと(この女が部活中におったら気が散って仕方ないわ!)頭の中でぐるぐると考え出すと、従姉妹はあっ!と叫んで走り去った。

…走り去んなや!

追いかけると従姉妹はウチのゴンタクレ、遠山にうきうきと話し掛けとるとこやった。…礼子サンてショタコンやったっけ。いや遠山は俺の1歳下やからショタってわけやないけど、まぁみてくれが小さいし。

「ん?ねーちゃん誰や?」
「私、光の従姉妹なんだ。君は光の後輩?」
「おん!ねーちゃん財前のいとこなんかっ似とらんなぁ!ワイ遠山金太郎や、よろしゅうな!」
「あはは、光と似てるって言われても嬉しくもなんともないわねぇ。金太郎くん、君はテニス強いの?」
「当然や!ワイ、このガッコで一番強いんやで!」
「すっごぉい!じゃあさ、決めポーズとかある?」

何を言い出すかこの女は。

「決めポーズ?ないけど…なんやめっちゃおもろそうや!ねーちゃん何かいい決めポーズ知ってるんか?教えてーな!」
「いいわよ、あのね、まずこうやって…」

そうやってこそこそと遠山に決めポーズとやらを教えだす従姉妹。俺はもう呆れて物も言えん。関わるの止そう。放っときゃいいんやあんなアホ。遠山?あないなゴンタクレも知るか。
その後従姉妹はしばらく遠山と決めポーズの練習をして満足したのか、遠山と「完璧やっありがとなねーちゃん!」「いやいや金太郎くんに素質があったのよ…ぶっふふははは…」なんて遣り取りをして帰っていった。何がしたかったんやあの女。

「財前、財前!なぁワイと試合せぇへん?」
「お断りや」

だってこいつ絶対決めポーズ披露する気やろ。

「むぅー…あ、ぎーん!なぁなぁワイと試合してーな!」

師範は「おん、ええで」なんてにこやかに返答して遠山を喜ばせている。ああ師範、なんでそこで試合OKするんや。いやそこが師範のええとこなんやけどな。
師範と遠山が練習試合するってことで、各自でコート使ってた他の部員がぞろぞろとコートから出てくる。まぁ師範と遠山が試合なんてしてたら周りが危なくてしゃーないからな。かく言う俺も既に安全圏まで避難は完了しとる。もうええわ、こうなったら遠山の決めポーズとやらを拝ませてもらおうやないか。

そして遠山は、やらかした。

「いくでぇ…っ!
  いいぜ ヘ(^o^)ヘ
        |∧
        /
てめえが
何でも思い通りに
出来るってなら
         /
      (^o^)/
     /( )
    / / >

   (^o^) 三
   (\\ 三
   < \ 三
`\
(/o^)
( / まずは
/く そのふざけた
   幻想をぶち殺す
覚悟しいやっ銀!」

空気が凍った。
満足気な遠山は置いといて、かっちーんと固まって動かなくなった師範、珍しく大口開けて呆気に取られとる小春先輩、思わずといった感じにこけた一氏先輩、目を見開いて遠山を凝視しとる副部長、俯いて肩を震わせる白石部長。まずいかな、遠山、これは部長に怒られるんとちゃうか?元はと言えば元凶は従姉妹やから、ひょっとしたら俺も怒られるんかな。従姉妹のせいで部長に叱られるとか嫌過ぎるわ。
けど、それは杞憂にすぎんかった。

「なんや金ちゃんそれ…めっちゃかっこええやんか…!」

アホの部長がそんな事言い出したからや。もうアホや。アホでええわこんな人。
部長の言葉で我に返った他の部員達も、何故か遠山の決めポーズとやらを大絶賛。最終的には何故か部員全員で「その幻想をぶち殺す!」の大合唱。なんやこの部活アホの集団やったんか。そんなん言うとる俺も合唱に参加してるあたり、アホの仲間なんやろな。もうええわアホで。アホの中で一人正気保ってたらおかしくなるわ。その幻想をぶち殺す、なんてかっこいい台詞なんやろな!

その日の夜、四天宝寺全員でそげぶしてる写メを見せたら、礼子サンは過呼吸になりかけるくらいの大笑いをしとった。





後日談
「なぁ財前…あれ、皆何なん?何やっとるん?」
「謙也くん何言うてるんスか。アホちゃいます?そげぶ知らんのですか?」
「は?あ、そ?そげ、…何やそれ」
「謙也くんぶち殺されたらええんとちゃいます?」


(倉井様よりいただきました!)