全国大会決勝戦。負けることなど許されない試合。俺もこうしてコートに帰ってきた。立海三連覇に死角はない。 順調に勝利を重ね、あと一歩で頂点へ辿りつく。ダブルス1はプラチナペア。不敵に笑う二人に敗北の二文字など見えない。
(強い者が勝つ、当たり前のことだな!)
思わず微笑みが零れる。
「俺らで優勝決めっぞ!」 「当然だろぃ」
ふふ、頼もしい二人だ。俺の出番なんて必要ない、そう思えるほどに!
「優勝するのは俺たち青学だ!」
威勢のいいこと。だが勝利はもう立海の手の中にある。優勝への確信、自信。
丸井とジャッカルはニヤリと笑うと、二人目を合わせ、こう言った。
「 いいぜ ヘ(^o^)ヘ |∧ / てめえが 何でも思い通りに 出来るってなら / (^o^)/ /( ) / / > (^o^) 三 (\\ 三 < \ 三 `\ (/o^) ( / まずは /く そのふざけた 幻想をぶち殺す」
静まり返るコート、冷えた空気の立海ベンチ、ポカンと口をあける青学ベンチ、固まりきった応援団。 何故かガッツポーズの二人。
俺は、自分の目を疑った。
凍りついたあのときの会場を思い出すと今でもぞっとする。止まった時間は動きだしたが、動き出したものの、すごく変な空気だった。時折聞こえる声はひそひそ、何あれ、どうなってるの?とか、恥ずかしくないのかしら、とか。そんなの俺が真っ先に聞きに行きたかった。しかし試合は始まってしまい、しかも負けるわ、俺も負けるわ、ああもう忌々しい!
俺は、(出来ればもう二度と関わりたくなかったが)妙な決めポーズの原因を探った。すると、一人の女に行きついた。 その女、例の試合の裏で別の女に「なんてこと教えちゃったのよあんた!」とがくがく揺さぶられながら、大爆笑をしていたという。「まさか、まさか本当にやるなんて…ぷっくはははは!!」とお腹を抱えていたという目撃証言も抑えてある。そんな訳で俺は、その女、財前礼子を校舎裏へ呼び出した。
「ねえ、なんで呼び出されたか分かってる?」 「…告白?」
財前礼子は悪びれる様子もなく首を傾げた。しらばっくれるつもりか。いくらでも証拠はあるというのに!俺は確信に迫る一言を紡ぐ。
「告白、ね。本当にそう思っているのなら…"そげぶ"」 「ぶっ」 「…」
噴出した。噴出してすぐキリッと真顔に戻った。しかし顔の緩みが収まっていない。
「…いや、なんのことやら……ぷっ、いや、でも、ゆ、幸村までそげぶって、はっ、あははは!無理無理、我慢出来ないあははは!」 「…」 「…ぶっ、す、すっごい怖い顔してるよ?」
ひとつ睨むと笑うのをやめたが、どうやら俺の"そげぶ"が財前礼子のツボにはまったらしい。話によるとそげぶとは、その、幻想を、ぶち殺すの頭文字だとか何とか。あの忌々しいポーズを決めながら言うセリフらしい。あまり深入りしたくない。ふう、とわざとらしく溜息を吐いて財前礼子に説く。
「俺たちは常勝立海、王者の風格ある学校のはずだった」 「過去形?」 「君がうちのダブルスにとんでもない入れ知恵をしてくれたからね」 「ああ、そげぶ?あれ教えたとき二人とも大喜びしててさ、っ、思い出すだけで…ふっ」 「俺にぼこぼこにされたいの?」 「ご遠慮いたします。…良いじゃんそげぶ、かっこいいでしょ」 「本当にそう思っているのかな?」 「もちろ…ぶっ…」 「…」
いっそ首でも締めてやろうか、物騒なことを考えていると顔にもそのことが出ていたらしく財前礼子は小さく後ずさる。
「…ま、終わっちゃったことは仕方ないって!ね!」
終わっちゃったことだからこそ、こうして、自分の責任について説いているというのに!この女、反省している様子が全くない。むしろ今この現状を楽しんでいるように見える。というか確実に楽しんでいる。にやにやが隠し切れていないし。やっぱり締めてやろうか。
「そこで何をしている」
しかし空気を読まない声によってそれは阻止される。せっかく校舎裏なんてベタに人気のないところを選んだというのに、真田が来てしまった。
「あ!真田!」 「む、財前に幸村か。どうしたこんなところで」
そわ、そわと真田はわずかに目を泳がせている。ほほう、なるほどなるほど。一体こんな女のどこが良いんだ。ろくでもないにもほどがあるだろ!
「ちょうど話が終わったところ!さ、行こう行こう真田!」 「って待ったまだ話は…!」
財前礼子はぐい、ぐい、と真田を引っ張ってそそくさと遠くへ消えてしまった。ちくしょう逃げられた。あんな危険な女、野放しにするわけにはいかない。俺の平穏、ひいては立海大付属の平和のために。次の犠牲者が出る前に、財前礼子を次は確実に仕留める。そして俺が、財前礼子の!
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「真田、さっきはありがとう。お礼にすっごいカッコイイの教えてあげる、確かあのとき真田会場にいなかったし」 「む?なんだカッコイイの、とは」 「1回しかやらないから、よーく見てて!いいぜ、てめえが何でも思い通りにできるっていうなら、その幻想を―――」
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