何度もしつこいほど言いますが、財前礼子のせいで私の人生の歯車はおかしいことになってしまいました。今では立海大付属全体に柳生比呂士はエロ紳士、というイメージが定着してしまったんです。この前なんて真田君に「エロし…柳生」なんて言われたんですよハハッもう笑うしかありませんよね。真田君の口からエロなんて言葉が飛び出してきたんですよハハッあああ忌々しい!

うつろな目で登校し校内を歩いていると、前方から財前礼子が歩いてくるのが見えました。運の悪いことに目まで合ってしまいました。正直、嫌な予感しかしません。パターンをいくつか想像するに、「エロ紳士おはよう!」か「じろじろ見ないでよ…エロ紳士…」か…はたまた…、びくびくしながら下を向いて歩きます。ああもう信じていませんが神よ、まだあなたがいるというのならどうか何事もなく…

「…」
「…?」

おや?なんと財前礼子は何も言われずに私とすれ違うだけでした。これははっきり言って予想外です。油断したところに足払いでもかけてくるかと思いきや、足なんて出てきませんでしたし手も出てきませんでした。「おっはよー!」と言いながらラリアット、そして飛んで行った眼鏡を踏んで一言「悪気はなかったの」というパターンでさえ覚悟していたのに。おかしいです、おかしいですよこんなことは!そうです、きっとこれは伏線。何か数日後に大きな何かを仕掛けてくるに違いありません!


ところが何日たっても財前礼子は何も仕掛けてきません。おかしいですね、そろそろ何かしら、何かしらしてきても良いころなのですが。ついこの前まで毎日毎日、そりゃもう毎日何かしら仕掛けてきては人のことを大笑いしていたくせにいったい何事なんですか!人のことを散々罵っておいて!ほら!いつものように罵りなさい!私のことをエロ紳士と…いやいやいや呼ばれないに越したことはないのです。私はただの紳士、ジェントルマンであって。ああ私は何と言うことを考えてしまったのでしょうか。「ホンット気持ち悪い…」と冷たい目で私を見る財前礼子が脳裏によぎります。そう、その目です、その目を待って…いえいえいえ私はいったい何を…!

そもそも財前礼子の存在が私にとってのイレギュラーだったのです。そう、前までの生活に戻っただけなのです。なんと喜ばしいことなのでしょうか!しかし、何なのでしょうかこの胸の痛みは。この喪失感は!