次の日から私の通り名は「ジェントルマン」ではなく「エロ紳士」となりましたおめでとうございます。いくら否定しても誰も私の話を信じてくれません。多分私が否定するたびに横から「でも本当に透けて見えたよ…?」と小さく口を挟む財前礼子が全ての元凶です犯人は財前。切原くんに「柳生先輩、エロ紳士って呼ばれてるんスか?俺もそう呼ぶべきですか?」と言われたときの私の絶望感を知るがいい。ああいやいや紳士たるもの女性に酷い事はできませんね、だったら私は紳士をやめるぞォーッ!財前ンンンーーーッッッ!!!
そんなわけでいい加減この不名誉な呼び名を何とかするべく、私は元凶と話をつけることにしました。

「財前さん、私が貴女を呼び出した理由はお分かりですよね?」
「…下着見たいの?その眼鏡で私の下着をじっくり鑑賞するために呼んだの?」
「しょーがない奴じゃの、やーぎゅ」
「何と言うエロにかける情熱…!いっそ尊敬するね!」
「御黙りなさいふたりとも!というか仁王くん、どうして君までいるんですか!私が呼んだのは財前さんだけのはずですよ!」
「プリッ」
「仁王はね、私が柳生にえろいことされると大変だからって着いてきっ…ぶっふふふ…着いてきてくれたのよ…っははははは!」
「そうじゃき、礼子が柳生に…っえろいこと、ぶっ…されると、大変じゃからのう…くっくくく」

そしてふたりとも笑いながらハーイターッチ!なんというグットコンビネーション。っていうか仁王くん、貴方は敵なわけですね。なんという孤立無援。でも負けない…!

「…私が貴女を呼び出したのは他でもありません」
「下着?」
「違います」
「まさか柳生、それ以上のことを…?」
「きゃー、汚されるー」
「しかしこれでエロ紳士の面目躍如じゃの」
「そうだね、下着見るくらいじゃエロ紳士って言うより覗き紳士だもんね」
「良かったのう柳生、これで胸を張ってエロ紳士と」
「名乗りませんよ!」

なんてことだ、話が通じない。幸村君から「手強いよ、財前礼子は」と聞いてはいましたがまさかここまでとは。しかし私もここで引き下がるわけにはいきません。引き下がってはいけないのです!

「財前さん、貴女のせいで私の通り名は今や『エロ紳士』です」
「酷い…このエロ紳士ときたら責任転嫁してきたよ仁王!」
「これではもう紳士とは呼べんのう…」
「でもエロ紳士から紳士を取ったらただのエロだよ?」
「やぎゅ、お前はそんなにえろかったんか…」
「ただのエロじゃ可哀相だから責任転嫁をくっつけてあげよう、責任転嫁エロ」
「新しいジャンルみたいになっちょるぞ」
「…ですから、その、私をえろいと言うのをやめていただきたい」
「でもえろいじゃない」
「えろくありません!仁王くん、無言で頷くのをやめたまえ!」

話が通じないっていうレベルじゃない、話を聞く気がないこの女。しかし負けるわけには…

「あれ?仁王先輩と柳生先輩と…誰っすか?」

通り掛かったのは切原くんでした。タイミングが良いのか悪いのか解りませんが、しかし私にとっては多少考える時間が出来たので良かったということにしましょう。

「赤也、こいつは財前礼子。俺のクラスメイトじゃ。礼子、こいつは切原赤也」
「ああ、2年生エース君ね。真田から話は聞いてるよー」
「げっ、真田副ブチョーと仲良いんすか財前先輩」
「ふふふ、どうかねぇ」

にこやかに三人が話しているのを、私は少し離れて見ていました。なんかもう嫌だ、財前礼子と話したくない。しかし私のそんな想いは切原くんには届かなかったようです。

「で、三人で何話してたんすか?」

そう言われた瞬間の財前礼子の顔を、私は恐らく一生忘れないでしょう。

「ん、あのね、柳生が私の下着を見ようとしてきて」
「な」
「あまつさえそれ以上のことまでしようとしてきて」
「ちょ」
「仁王がいなかったら今頃どうなっていたことか…ね、仁王」
「あんなギラギラした柳生、俺も初めて見たぜよ」
「何を言ってるんですか君達!」
「柳生先輩…本当っすか…?」
「切原くんも信じないでくださいっ!」

死にたい。