謙也に届け

当たり前に毎日行っていることなのだが、俺は家に帰ると郵便受けを開ける。大抵、公共料金の明細書や、ダイレクトメールしか入っていないのだが、その日は違った。

ピンク色の封筒が一つ。宛先には、忍足謙也の名前。コ、コレはもしかしてもしかすると!おおお俺白石宛によく預かるコレ…コレ、コレコレって…ラから始まって伸ばす感じで終わる…。ざわざわする心を落ちつかせつつ、封筒に貼られたピンクのシール(ウオオオ)を剥がす。

"す"

紙が、"す"だけ書かれた紙が入っていた。何だこれ?イタズラか?なんだか期待した分裏切られた気がする。はあ、と息を吐いて俺は自室のベッドに転がった。

翌日。同じ封筒が入っていた。

"き"

えっ、ココココレってやっぱりもしかして…!翌日。

"や"

関西弁万歳…!三枚の紙を並べて俺は思わずニヤニヤしてしまった。いや、コレだけではまだ…誰からの手紙なのかも分からない…!更に翌日。

"き"

なるほど、最初の文字は"き"…。同じクラスの木村さんか?それとも隣のクラスの木下…!で、翌日。

"た"

北川さんやったんかー!翌日。

"べ"

って、べ?えっ、きたべさん?いたっけそんな人…、もしかして隣の中学に…えっ?よ、翌日。

"た"

きたべたさん??翌日!

"い"

ああーなるほど"すき焼き食べたい"

「って、なんでやねん!」
「一緒にどうですか?」

思わずベッタベタなツッコミを叫んでしまった。それとほぼ同時に、女の子の声が聞こえた。声のするほうを見ると、女の子がピンク色の封筒を持ってニコニコ笑っていた。自慢じゃないが、俺はこういうのに耐性があるわけではなく、その、なんだ、つまりだ。

「喜んで!」