マギ | ナノ


蟠桃の枝にて絞首する

 断崖の中の窪地、その中央に降り立ったアラジン達は入江を背後にして海賊達と向き合った。五人を取り囲む海賊達の中に船を襲ったリーダー格の少年を見つけたアリババは、剣を抜きながら少年に向かい、叫ぶ。

「町の子供達を返せ!」
「嫌だね、あいつらももう「大聖母」の息子なんだ!」
「…………………」

 敵地のど真ん中という潔い場所。珂燿は海賊の相手をアリババに任せて、立ちあがりながら地形の把握に努めた。賊の根城となれば、ギミックは付きものだからだ。
 広場を囲む岸壁には、数多の穿孔が存在した。ただ穴が空いているだけならまだしも、ほぼ全て足場になるようにせり出している構造が備わっているとなれば、天然の物とは考え難い。

「ブロル!」

 少年はそう叫ぶと、合図をするように義手を上げた。
 珂燿は、とある一つの反射光のある穴に目を凝らした。そこには魔法道具の照準をこちらに合わせている海賊がいた。船上でも見た、砲身から水球を放つ魔法道具だ。

「皆様、壁の穴からこちらを狙っている賊がおります」
「もう無駄だぜ、その魔法道具の能力は判っ……て!?」

 放たれた水球を見て、アラジン達全員が散り散りになって慌てて回避した。
 殺傷力が、凶悪に撥ねあがっていたのだ。船上では人一人を弾き飛ばす程度の威力だったのに、先程放たれた一撃は地面を抉り、大穴を残した。弾丸が砲弾になっている。無防備に直撃を受ければただでは済まない……。

「自信満々につっこんできやがって……この砦に入ったらお前らはもう俺達に勝てねぇんだよ!」

 哄笑しながら、穴から次々に海賊達が姿を覗かせた。それぞれが水球を放つ魔法道具を用い、アラジン達を追い詰める。

「どうなってんだ! さっきとは違う魔法道具か、こいつらいくつ持ってんだよ」
「あんたら、魔交虫も知らないの? 遅れてるー!」
「魔交虫……?」

 船上では一人一人が魔法道具を使っていたのに、今は三人から四人が一組となって連結させた魔法道具を使っている。おそらく、その連結部品が連中の言う魔交虫なのだろう。
 威力を乗算させている厄介なものだが、連結させたために問題も発生したはずだ。

「でもそれじゃあ、動くことは出来ないよね……灼熱の弾丸!」

 あわや集中砲火を浴びるかという危機をアラジンの魔法が救った。アラジンが作り出した多数の火球が、つぎつぎに海賊達に着弾し自慢の魔交虫を焼いていく。

「や、やばいよオルバ! このままじゃ……」
「くそっ、アーロン、ヨーク、ビョルンとべ!」

 一気に形勢が逆転した中で何を思ったのか、海賊達は穴から飛び降り始めた。
 手が届く範囲に来ればこっちのものだ。そう思い珂燿は駆けだそうとするが、海賊達は着地することなく、オルバの魔法道具が作り出した空気球に包まれ、宙に浮かんだ。

「げっ……」

 アリババも白龍も、勿論珂燿も呻いた。移動砲台となった海賊達の放つ水の砲弾を避けつつ、接近してきた時を狙い反撃を試みるが、空気球を操作するオルバの把握能力の高さにいいように翻弄される。
 飛ぶ相手ならば、とアラジンが再び灼熱の弾丸を放つも、海賊達は岸壁の穴の中に隠れる。見えない場所まで追尾させる命令式は組み込めていないらしい火球は、当たる事無く終わった。
 珂燿は地の利を生かした海賊達の動きに舌を巻く。姿を覗かせた海賊を白龍が降龍木蓮衝で追い掛けるが、指先が海賊たちを捉える前に背後から撃たれる。

「くそ」
「若君!」
「珂燿さん!」
「珂燿!?」

 なんとか白龍の背後に割り込んだ珂燿は、水球を棍で叩き斬るようにして直撃の威力を殺したのだが、水自体は消せなかった。自分を庇い攻撃を受けた従者に白龍は駆け寄る。
 腹に据えかねたモルジアナは駆けだした。垂直に近い壁を、ファナリスの身体能力を生かして駆けあがり、逃げた海賊を追って穴へと飛び込む。

「大丈夫か、珂燿……?」
「海賊風情が、若君に……!」

 許せない。
 許せるはずがない。

「生皮剥いで海に叩き込むぞクソガキ共が!」
「っ!」

 全身を濡れ鼠にさながら、悪鬼の様に叫んだ珂燿は手にしていた梢子棍を空に浮かぶ海賊へと投擲した。

「当たるかよ! バーカ!」
「眷属器……操命棍」

 矢の様に飛んだ梢子棍だが、それでも海賊達を包む空気球に当たることは無かった。穴の空いた岸壁に突き立つ梢子棍……。無手になった珂燿は跪くように地面に手を添えた。先程、久しぶりに大陸に立ったことで、気を身体に充填させている。新しい力を手に入れた今、大立ち回りを演じる事は容易い。
 珂燿は気を大地に走らせる。眷属器となった棍の木製部分が気を受けて、白龍の義手のように蠢き背後の死角から宙に浮かぶ海賊を叩き落した。

「ぎゃあ!」
「うげぇっ!」
「やった!」

 落ちてきた海賊達へと珂燿は無言で歩み寄り、猫の子を運ぶように首根っこを掴み軽々と持ち上げた。そして腹部に少量の気を込めた一撃を入れてやる。反吐を吐きながら痙攣した海賊を投げやすいように持ち直して、視線を巡らせた。
 猛禽のように鋭い目で機会を伺い、その時はすぐに訪れた。

「外に出ろ、穴の中はやばい!」

 駿足と怪力を持つモルジアナの活躍により、穴の中という狩り場から逃れた海賊達へ向けて、珂燿は手にしていた海賊を投擲する。

「家族とやらは大事か?」
「あんた、まさか!」

 珂燿の意図に気付いたオルバが、顔を青くした。投げられた気を失っている仲間。簡単に躱せる速度であっても、受け身も取れない状態の仲間を避けてしまえば、鍾乳石のようになっている岩壁上部に叩きつけられる。避けられるが、避けてはいけない。

「避けろ!」
「ダメだ避けるな!」

 魔法道具によって作り出された空気の弾は一撃で壊れてしまう。人一人が衝突した衝撃でも簡単に割れてしまい、弾となった者と共に地面に落ちる。
 それらを乱雑に気を叩き込み気絶させては、弾として穴から逃れてきた海賊に珂燿は次々と投げつけた。一つ落とせば玉が3つ4つに増えるし、的の方から当たりに来てくれるのだ。これほど楽な遊戯はない。
 白龍に仇なす輩には、珂燿は一摘みの慈悲さえも与えることはなかった。えげつない攻撃に、仲間であるアラジン達も少々怯えた。普段の優しく丁寧な姿との違いに、心の距離が生まれた。

「全滅です」
「私も終わりました」
「すげぇぜ! モルジアナ、珂燿さん!」
「二人とも強ーい!」
「………………」

 たった二人で海賊達を沈めた女性二人にわーわーと手を叩いて活躍を称賛するアリババやアラジンとは違い、白龍は男の沽券という物にそっと蓋をして海に流すことにした。

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