Dtermination






「アルベル…を、「人」として…好きに、なっちゃったの…っ!」





部屋に響く、嗚咽混じりの妹の声。
必死に自分に伝えようと一生懸命に言葉を口から吐き出してくれているその真意をブレアは理解出来ずに思わず目を泳がせてしまう。





「えっ…と、ロア?一体それはどういう…?」


「分かって、る、よ!ルシファーもっ、言って、た!データ、なんだっ…て、で、も…でも、私には、ふ、…アルベル…が、データだなん、て…思えな…くて!」


「っ……ロア……貴女…」





自分の目の前で泣きじゃくりながら必死に呼吸を整えようとしているロアの姿と、その体全身から溢れ出させてくるような言葉の数々を浴びたブレアは未だ戸惑いながらもそっとロアの肩に手を添える。

その肩がカタカタと揺れているのを確認して、ロアが如何に自分に対してその想いを伝えようとしてくれているのか実感したブレアは意を決してロアへと声を掛けた。






「…ロア、それはつまり…貴女がアルベルという人を、データでは無く、1人の人間として惹かれているということ?」


「…う、う…ん…!うん…っ!」


「……そう…そうなのね……はぁ、」


「っ…!!」





自分が伝えた言葉を聞き、その上で改めて再確認をするように聞き返してきたブレアに、ロアはうん、と数回首を縦に振って答えを示す。

その答えを聞いたブレアは数秒間を置くと、そうなのねと自分に言い聞かせるように呟いて最後に溜め息のような息をゆっくりと吐いたのだ。

それがロアにとってはきつい態度だったのだろう、やはり嫌われてしまったのだろうかと怖くなって両目をぎゅ、っと強く瞑って身構えてしまう。







「…いつの間に、こんなに大きくなっていたのかしらね」


「……へ…?」


「こんなに強い気持ちで人を好きになれる、とても素敵な子に育っていたなんてね。」






ふわり。
身構えていたロアの体をそんな風に包み込んだその香りは、ロアが昔から大好きなブレアの香りだった。

背中に手を回され、もう片方の手で優しく頭を撫でながら言われたその言葉に、ロアはツン、と鼻の奥に痛みを感じて思わず口を固く結んでしまう。






「ごめんなさいねロア。…知らなかったとはいえ、私と兄さんは貴女のその素敵な感情と感性を台無しにする所だったわ。」


「…ブレア…?っ、変…だって…思わ、ないの?」


「思わないわ。絶対に思わない。それとも、もしかしてあの言葉は嘘だったの?」


「!う、嘘じゃない!!」


「なら、私はそれを受け入れるだけね。」


「っ…!ブ…レア…!ブレアぁああ…っ!!」


「ふふ。はいはい、良く言えたわね。もうこの際よ。その彼がどんな人で、どんな所に惹かれたのか、私にもっと教えてくれるかしら?」







ゆっくりと顔をあげたロアの瞳に映ったのは、いつもの大好きなブレアの笑顔。
優しく目を細め、口元を緩めているその表情だけで、ロアは分かってしまった。

普通の人からしたら、確実に可笑しいと言われるような事を言っているこんな自分を、ブレアは素直に、真っ直ぐな心で受け入れてくれたのだと。

そして、この気持ちを自分が溜め込んでいたことも、ブレアにはお見通しなのだろう。
アルベルがどんな人なのか、どこに惹かれたのか教えて欲しいと、自分に彼への気持ちを吐き出す機会まで与えてくれたのだから。





「あ、…あのね!アルベル…は、見た目はちょっと怖いんだけどね…!初めて見た時に、真っ白な雪の中を歩いてて…!ま、まるでアルベルが、モノクロの世界に色を挿してくれたみたいな感覚だったの…!」


「ふふ。…ええ、それから?」


「それから…それからね!…騎士団の団長さんでね!部下が沢山いるんだけど、厳しそうに見えて、実は部下を心配してたりしてて…優しい所もあって…!部下が卑怯な手を使って捕まえた敵も逃がしちゃったりもするんだよ!」


「あらあら。なんだか不器用そうな人ね?」





ブレアのその気遣いが、ロアにはかなり救いだったのだろう。
ぽろぽろと流していた涙はいつの間にか綺麗さっぱり消え、アルベルのことを話していく内に段々と遠慮がちだった態度も持ち前の元気を取り戻して明るくなり、瞳も生き生きと輝きを帯びて、最終的には弾丸のように言葉を発していた。

そんなロアの嬉しそうな姿に、ブレアは嬉しそうに笑いながら何度も相槌を打って答えていれば、時間はあっという間に経ってしまうもので、気づけばすっかりと時計は夕飯時を指してしまっていた。






「…あ、ご、ごめんなさいブレア!!つい話し過ぎちゃった!」


「え?あぁ、別に良いのよ?今抱えている仕事も別に急ぎの物ではないし…それよりも…」


「?どうしたのブレア?」




確認した時刻に慌てて謝罪をする、すっかりと元気を取り戻したロアにブレアは本当に気にしなくて良いのだと笑顔で言うと急に真剣な表情を浮かべ、何かを考えているのか指先を口元付近に添える。

すると暫くして、黙ってただ首を傾げていたロアへと視線を戻したブレアは少し静かな音量で口を開いた。






「…ロア、そのアルベルくんへの感情は兄さんには絶対バレないようにして頂戴。少し引っかかることがあるのよ…」


「え?引っかかること…って…?」


「それは…ごめんなさい。まだ確証が持てないから何とも言えないわ。…ただ…そうね…一週間…いえ、数日私に時間をくれない?」


「うん…?ブレア…何かするの?」





確かに、自分はブレアにこそアルベルに対しての気持ちを打ち明けられたが、だからと言ってルシファーにまで同じように話せるか、と言われれば…正直あのルシファーの思考を見る限り明らかに答えはNOだった。

だからその点については何の疑問もないのだが、何故かブレアは引っかかる事があるからと自分に時間をくれと頼んできた。
その言葉に全く予想がつかないロアはただ言われるがままに頷いて首を傾げる。





「…貴女とエターナルスフィアについて、少し調べたい事があるのよ。だからその為の時間を頂戴。」


「調べたいこと?…う、うん…?」


「兄さんに上手くバレないようにしつつ、私のやる事が終わるまで大人しく待ってていられたその時は…」


「?その時は?」





ロアと共にソファに座っていたブレアは調べたいことがあるのだと言うと、すくっと立ち上がって何やら空中でモニターキーボードを起動させるとカタカタと両指で操作をする。

それをほんの数秒でそれを打ち終えたかと思えば、上手く状況が飲み込めていないロアへと視線を戻して得意気にそっと自身の口元に人差し指を添えた。







「アルベルくんに、会わせてあげる。」





「……………え?」







そんな爆弾発言をいとも簡単に素敵なウィンクと共に言ってのけるブレア。

そのあまりの事に目を見開いて唖然としてしまっているロアに悪戯な笑みを残して去ってしまったブレアの背中を、やはり唖然としたままのロアは何も言えずにただ扉が閉まっていくのを見送る事しか出来なかったのだった。






「……ど、どういうこと……?」






ロアのその質問に答えてくれる人物は、勿論誰もいない。





「待っててロア…私が必ず…真実を見つけるから…」





その答えを知る者は、コツコツとヒールを鳴らして長い廊下を歩く、真剣な表情をしたブレアのみなのだから。




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