property



「オーナー…いえ、兄さん!これで分かったでしょう?もう…もう止めてください!」


「ぐ…う、…ブレア…か。…そうか…どうりでコイツらがここまで辿り着いたわけだな…お前がここまで手引きしたのか…っ、そこまで…そこまで私に逆らうのか、妹よ…!」


「っ、エターナルスフィアに生まれた生命体達は、私達と比べても何ら遜色のない思考を持つ程に成長しました。もう彼等は、私達の手を離れたのよ…それはこの子だって…ロアだってそうだわ!」


「!ブレア…」




ロアを強く抱き締めたまま、反対側の壁に激突した後にふらふらと立ち上がったルシファーに向けて叫んだブレアのその言葉は、その腕の中にいたロアの涙をピタリと止めるには充分過ぎる程に強く優しいものだった。

そしてその言葉はフェイト達にも響いたのだろう。
ありがとう…というような優しい眼差しと共に、より一層負けるわけにはいかないとその気持ちを強くして各々立ち上がったルシファーに向けて殺気を放つが、そんな事など全く気にしていない様子のルシファーは真っ直ぐにロア達の方へと歩きながら言葉を発する。




「馬鹿な事を…!!こいつらは所詮データだけの存在でしかない。エターナルスフィアという世界そのものが、完全なる虚構に過ぎないのだぞ?!」


「彼らが私達と同等の心を持つに至った今、私達との間にどれ程の違いがあるって言うの?それは兄さんが良く分かっている筈よ!現にロアは、私達がロアを大切に想うのと同じように、そこにいるアルベルくんに心惹かれて、兄さんの施した記憶の消去だって覆したじゃない!」


「っ…!!それは…!」


「それに、これまでのように私達の世界からエターナルスフィアへの一方的な干渉を行う事だって出来なくなっているじゃないの!だから兄さんはわざわざエクスキューショナーというプログラムを作ったわけでしょう?!それこそが彼らが私達と同じような存在に成長したという事よ!」


「ぐ、しかし…!こいつらは我らに危害を加えようと空間を越える力まで手に入れたのだぞ?そのような危険な存在を放置しておくわけには…!」


「彼らが私達の前に現れたのは、元はと言えば兄さんが彼らの世界を消し去ろうとしたから。そしてアルベルくんだって、元々は同じ世界…同じ星に居たはずのロアを取り戻そうとしたからなのよ!彼ら自身は何も悪くないわ!」



初めはゆっくりと歩いて来ていたルシファーは、ブレアとの会話の中で湧き上がってきた苛立ちをその足で表すかのように、次第にその歩みを早めて眉間に皺を寄せる。
そしてブレアの言った言葉に上手く反論出来なかった箇所もあった事が余計に苛立ったのだろう…ブレアとロアの傍で刀を構えたまま黙って聞いているアルベルを乱雑に指差すと、殺意を込めた瞳を彼に向けて叫ぶ。




「何を言っている!こいつらの存在そのものがエターナルスフィア自体に重大なバグを発生させる!そのような悪質なウイルスを消去して、何が悪い?!大体こいつらは私が作り上げた「データ」だ!私の所有物なのだよ!それを好き勝手にされ、尚且つ言うことを聞かないのなら改変だってするだろう?!」


「っ違う…!だから違うんだよルシファー!!アルベル達は…私達はもう「データ」じゃない!ウイルスでも所有物でもない!!ルシファーが私を気に入ってくれてるのは嬉しいよ!でも、でもその気に入り方は…っ、」


「あぁあぁもういいもういい!!お前は黙っているんだロア!!これ以上この私を苛つかせるなっ!!!」


「っ…!!」




バグだ、ウイルスだ、所有物だ。
そう声を張り上げ、苛立ちを薙ぎ払うかのように持っている槍で空を斬って見せたルシファーのその姿に恐怖を覚えてしまったロアは彼の言う通りに言葉を失って体を硬直させてしまった。

しかしその「恐怖」を感じさせたその姿をロアの前から遮らせたのは、今まで黙って聞いていた…彼に指を指されていたアルベルだった。
ロアとブレアの目の前に立ち、背中を向けていることからロア達には見えないが、どうもその背中からは「面白い」といった感情が見え隠れしている。




「さっきから黙って聞いていたが…要はお前、その消そうとしていた邪魔なウイルスとやらから自分の所有物を盗られた事が余計に気に食わんだけだろう?悪いが、これ以上ガキの駄々っ子に付き合う暇なんざ俺にはない」


「……何だと…?!」


「それにな、元々ロアは俺の生まれた星の人間だ。当然ながら帰るべき場所は俺と同じ場所…お前の所には帰らねぇし、初めはお前のもんだったかもしれんが、もうこいつは「俺のもん」だ。そこを履き違えられたら困るんでな」


「…あら、随分とカッコイイこと…」


「…私の彼氏カッコよすぎて怖いのどっか行った…」


「姉妹揃って阿呆だな…状況を考えろ」


「「ごめんなさい」」


「貴様ァァァ…ッ!!!それが如何に滑稽な妄言かどうか、分からせてやる…!!!」




自分達の目の前に立ち、そう言って最後の最後に後ろを振り返ってみせたアルベルのいつもと何ら変わらない自信に満ちた表情を見たロアとブレアはそれを見ると思わず安心して気が抜けてしまった。

それぐらい安心してしまったのは、アルベルが今までどれだけの困難を乗り越えて、どれだけのことを自分達の為にやってくれたのか…そして、勝負を前にした時の彼がどれだけ強く、どれだけ彼らしくいられる空間であるかも、良く分かっているから。

そしてその光景に、良い意味で自分らしさを取り戻すことが出来たのだろうフェイト達もまた、駆け寄ってルシファーに攻撃を仕掛けながら各々の覚悟を叫んだ。




「…改変…所有物…ウイルス、ねぇ…?確かに私達はあなたの手によって作られた存在なのかもしれないわ。でもね…だからと言って何もかもをあなたに好き勝手にされるいわれは無いのよ。自分達の滅びるその時くらいは…自分達の手で決めるッ!!」


「っ、馬鹿な…!0と1との集合体に過ぎない分際で…!」


「例え事実がどうだったとしても!私達には想いがあります!皆を助け、世界を救おうという想いが!それはロアさんだって同じなんですよ?!」


「そうだっ!僕達はこれまでそういった多くの人達の想いに支えられて旅を続けて来たんだ。その想いを裏切らない為にも、この世界を消させやしない!」


「何が…っ!何が想いだ!戯けたことを!!貴様らの言う想いなどというものは所詮我らの感情を模した作り物にしか過ぎんのだ!」




順に仕掛けられるフェイト達の強い想いとその攻撃を槍と言葉で受け止めながらも、歯を食いしばって怒り任せに振るってきたルシファーの槍から放たれた衝撃波によってフェイト達は一旦勢いを無くして後ろへと下がってしまう。

しかし、その下がった場所で待機していたソフィアやスフレによって治癒を受けようとアイコンタクトを取ったのだが、そんな暇など与える訳が無いだろうとルシファーは容赦なく槍を構えてその手に力を込めた。




「っ、させない!!私だって邪魔くらいは出来るんだから!!…ッ、ファイアボルト!!」


「ロア、それはレイよ…」


「あ、あれ………?!」


「………制御しろと言っただろうが、この阿呆……」


「ご、ごめんなさい…!!」


「まぁでも上出来だ!お陰さんで回復ってな!」




フェイト達が回復をする邪魔をさせられないと、元の世界であるエターナルスフィアにいる事で脳内にノイズが走ることも無く、瞬時に紋章術を唱える事が出来たロアだったのだが、やはり音痴なのは相変わらずだったようで、彼女の中ではファイアボルトを唱えた筈なのだが、それはレイとなってルシファーの上空から眩い光が降り注ぐことになった。

本当ならファイアボルトをルシファーの足元に放って行く手を阻もうとした為に、その結果に焦ってしまったロアが思わずルシファーの安否を確認するが、どうやらそれは意図も簡単に避けられてしまったらしい。
そんな様子にホッとしてしまった中で…自分がどれだけ息巻いても、やはりルシファーに傷ついて欲しくないという思いがある事を再確認したロアが少し弱気になって複雑そうな表情をブレアに見せれば、まるでブレアは「それでいい」と言ってくれているかのように優しく微笑んでその頭を撫で、ルシファーに強い視線を向ける。




「兄さん…これだけ言ってもまだ分かってくれないの?」


「黙れブレア!分かっていないのはお前の方だ!いかに高度な存在になろうと、こいつらはあくまでも作り物でしかない!データはデータらしく素直に消去されるがいい!ロア!お前もいい加減に私の言うことを聞け!!」


「っ、ルシファー!私は皆が消えるのなんて嫌なの!だって私は皆とここに居たい!この世界にいたい!ルシファーには感謝だってしてるよ!でも、だからって私は何でもルシファーの思い通りになるのは嫌だ!私は、私の生きたいように生きる!!」


「そうよ!ロアにはロアの生き方がある!それを妨害するのは間違っているわ兄さん!!ロアは好き勝手に出来る「物」じゃないのよ?!」


「うるさいっ!!!黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れッ!!!私は創造主なのだ!!私の創った創造物を好きにして何が悪い?!悪を消そうとして何が悪い?!」




フェイト達が息を整えている間にブレアとロアの2人がルシファーを説得しようと言葉をかけるが、やはりもういくら言ってもルシファーには響いてくれないのだろう。
ブレアとロアの言葉を「うるさい」と吐き捨て、自分が全て正しいのだと信じて疑わない。

そんなルシファーに悲しさと寂しさを覚えながらも、フェイト達が揃って頷いてルシファーに向かって走っていく姿をその目に映したロアは自分に出来ることをしようと意識を集中する。




「全てが自分の意のままになると思うな!僕達は…!僕達はお前の玩具じゃないんだ!!クリフ!アルベルッ!!!」


「おう!分かってんぜ!!」


「一々呼ぶな阿呆。…おいロア!」


「っ…分かってる!!今グロースかけたとこ!!」


「僭越ながら私も加勢するわね!エンゼルフェザー!」


「!流石ブレア!!」


「ふふ。貴女に紋章術を教えたのは私でしょう?……ほら、大丈夫よ。想いの強さは…貴女達の方が強い」


「…え…?」




ソフィアがフェイトにグロースをかけ、ミラージュやマリアが少し強引ながらも足技でクリフを勢いよく飛ばしたのを見たロアがアルベルにグロースをかければ、そんな援護を受けた前衛3人の凄まじい攻撃を受け止めきれなかったルシファーの槍がピキン…!と音を立ててひび割れる音が聞こえたと同時に。

追加で隣にいたブレアからエンゼルフェザーの恩恵を受けたフェイトが放った渾身のリフレクト・ストライクが完全にルシファーの槍を破壊して…彼ごと吹き飛ばしてみせた。


そして…ゴーン…と時を知らせる鐘のような音と共に。
吹き飛んだ先にあった…巨大な時計の針に激突したルシファーが床に向かって行くのその光景が…ロアには何ともスローモーションのように見えたのだった。


まるで、走馬灯のように…幼い頃からの壮大な数の彼との思い出の量に、時の流れの方が負けてしまったかのように。



BACK
- ナノ -