promise was fulfilled





「ソフィア!!」


「うんっ分かった!援護するね!グロース!!」


「よしっ!ショットガン・ボルトッ!」



目の前のルシファーに向かって真っ直ぐに向かっていったフェイトが出したその攻撃は、離れた場所で仲間の援護をしているソフィアのグロースによって、通常よりも威力が数段階上がった状態で繰り出される。

名前の通り、火を纏った弾丸のようなその連続攻撃は、ルシファーが咄嗟に生成した槍で防いだとしても幾つかのものがルシファーが身にまとっている金の装飾を焦がしてしまう程の凄まじいものだった。
その事に対し、気分が悪いと舌打ちをしたルシファーだったが、今度はそんな暇など与えるものかと、フェイトが放ったショットガン・ボルトによって発生した煙の上空から飛び出したクリフが飛び膝蹴りを放つ。




「おらおらおらァッ!立て続けに行くぜ!!エリアル・レイド!!」


「っ…!!データ如きが…!調子に乗るなよ?!!」


「ぐっ、?!…っ、はぁ?!嘘だろあれを避けんのかよ?!」


「「クレッセント・ローカスッ!!」」


「調子に乗るなと言っている!!!」


「「きゃあぁっ!!?!」」




しかしその技は惜しくもルシファーによって避けられてしまい、その瞬発力に驚くクリフが素直に声を上げてしまうが、今度はその間にルシファーの後ろに回っていたらしいマリアとミラージュの2人が揃って同じ技を放った。
だが、それさえもルシファーは反応して後ろを振り向くと共に手に持っている槍でマリアとミラージュの膝裏を狙い、まるで押し出すように彼女達をクリフとフェイトがいる方向に薙ぎ払う。




「!!皆っ?!っ、ソフィアちゃん!プロテクション!!」


「うん!分かってる!!っ、スフレちゃん!!」


「はい!!あたしナイスキャッチー!!皆、大丈夫〜?」


「な、なんとか…!」


「ふぅ、助かったぜ…サンキューな!っ…にしても、あの野郎、ものすげぇ反応速度だったな…」


「っ、この世界の私達に施した元々のプログラムよりも、更に上のプログラムを自分に設定しているんだわ…まぁ、それはそうでしょうけど…っ!」




マリア達を咄嗟に受け止めたフェイトとクリフだったが、あまりの勢いに地についていた足はそれに耐えきれずに端の方へと飛ばされてしまったのだが、それは離れた場所からルシファーの作り出した箱の中から見ていたロアの声掛けを切っ掛けに、飛ばされた全員は壁に衝突すること無く、ソフィアはフェイトを、ロアはクリフをプロテクションで防御面を強化されつつ、後ろで彼女のダンスによって召喚されたスフレの妖精に受け止められ、どうにか事なきを得れたようだった。

実際にルシファーと戦闘をしてみた事で改めて彼が「自分達を作った存在」だと実感してしまったフェイト達が悔しそうにその拳を握る中、それでも彼らが無事だったことにロアは安堵の表情を浮かべる。

しかし…その様子を見ていたルシファーはロアが本当に自分を裏切ったのだと…槍を握っている拳が震える程に怒りを露わにして自分の後ろにいるロアに怒声を浴びさせる。




「ロアッ!!今のはどういうつもりだ?!今のようなふざけたことをもう一度する気なら、今すぐ反抗出来ぬよう、プログラムを書き換えてやるぞ?!」


「っ、そうされたとしても…!私はルシファーが分かってくれるまで何度でも反抗するからっ!」


「っ…そうか…!そんなに私の言う事が気に食わぬと言うのなら…っ!!今すぐ身動きが取れぬように…!!」




血走った瞳…歯を向きだしにした大声…
自分に対していつも優しかった、冷静で且つ品性のあったルシファーからは想像もつかないようなその雰囲気に一瞬怯んでしまったものの、それでも諦めたくないと何とか言い返したロアは、その言葉に対してルシファーが自分に向かって妨害プログラムを起動しようとしたのだろう事を察すると、急いで自分にプロテクションを掛けようと意識を集中しかける。




「はっ!そんな事を大人しくやらせるわけねぇだろうが!空破斬ッ!!」


「!!データの分際で…!この私に適うと思っているのか?!武器でしか攻撃出来ぬ貴様の不意打ち程度でこの私にこれ以上攻撃が通ると思ったら大間違いだ!!」




だがそれは、気配を殺しつつすぐ傍に待機してくれていたらしいアルベルが瞬時にルシファーに斬りかかってくれた事で、彼の意識はロアへのプログラム変更よりも目の前のアルベルへと流れる。
その際にぶつかり合った刀と槍がまるで悲鳴でも上げているかのようにギーギーと嫌な金属音が響く中でも、お互い睨み合ったままの2人は言葉を交わす。

しかしいつまでもこの状態では…恐らくフェイト達よりも強い設定でこの世界に来ているのだろうルシファーの方が有利かもしれないと焦ったロアがルシファーにバレないよう、静かにアルベルにグロースを唱えて援護をしたその瞬間。
アルベルに対して殺意そのものの視線を真っ直ぐに向けていたルシファーのその瞳は何故か丸くなってしまう。



何故か、それは…刀を握っていない方のアルベルの手が、いつの間にか緑色の光を帯びていたから。




「ほう…?誰がいつ「武器でしか攻撃が出来ん」と言った?」


「っ?!な…!!?」


「気功掌!!!」


「かはっ、…?!」


「!!ルシファー…!!」



今までの様子から、アルベルが剣だけでなく、気を放つ事でも攻撃手段があると把握していなかったらしいルシファーは、アルベルの気功掌をモロに腹部に食らって反対側の壁まで吹き飛んでしまう。

その様子を目の前で目撃したロアは、アルベルが無傷で済んだことに安心しつつも勢いよく壁に衝突して地に伏せたルシファーを見て思わずその名前を呼んでしまうが、それはいつの間にか誰かに手を握られた事に驚いて弾かれたように体全体をビクリと跳ねさせてしまった。

この状態で、今いるこのメンバーの中で。
一体誰がルシファーにプログラムされたこのバリアの防御を突破して自分の手を握れるというのか。
そう思ってその方向を確認したロアの瞳は、その瞬間に瞬く間に大きく見開かれ、それに呼応するかのように大粒の涙が一粒地へと落ちる。




「「またね」って。約束したものね?ロア」


「……ブレ…ア………?」


「ふふ。他に誰がいるというの?まぁ、さっきまで兄さんにバレないようにアルベルくんの後ろに潜んでいたから、気づかなかったのも無理はないわね?」


「ほ、ん…とに、ブレア…?っ、ううん…ブレア…だ…!ブレアだぁ…っ!!」




大好きな声、大好きな香り。
完全に解除されたバリアがパキパキと割れていく音と共に、いつの間にか自分を抱き締めてくれていたその存在から漂うその感覚で、本当に本当に今起きている事が現実なのだと実感したロアは、しがみつくようにブレアの華奢な背中にその両手を回すと、一粒だったその雫をいくつも増やしてぼろぼろと泣き始める。




「だからそうだと言っているでしょう?実は貴女が兄さんに攫われたのを知って、焦ってつい冷静さを欠いてしまってね…その隙を突かれて兄さんのプログラムに捕まってこの世界に幽閉されてしまっていたのだけれど、そこをアルベルくん達に助けてもら、」


「っ!!ブレア…!!う、うわぁぁあブレア、ブレアブレアブレア、ブレアぁぁ…っ!!!」


「!あらあらこの子ったら…ふふふ、ほらほら、泣かない泣かない」


「無理無理無理…!!泣かないのなんて無理ぃぃぃぃい!!!アルベル、皆ぁ…!!ブレアを助けてくれて、あり、ありがとうぅ…!!」




子供のように泣きじゃくって、子供のようにその胸に頬を擦り付けて。
大好きな姉と「またね」と約束したことが叶った事を心から、全身から全てを噛み締めるかのようなロアのその姿と…

同じく嬉しそうに涙を流しながらそっと自分にしがみついて震えている大好きな妹の背中を摩りながらヒールを掛けてくれているブレアの姿は…




「…フン、全く世話の掛かる姉妹だ」




血が繋がっていなくても。
存在している世界が…いや、その生命の理が異なっているとしても。
それでもそれは、どう見ても想いあっている本物の姉妹にしか見えやしないと。

遠くでそれを眺めてホッと胸を撫で下ろして微笑んでいるいるフェイト達には聞こえなかったが…
その姉妹の近くにいるのに、ぶっきらぼうな態度を取っているアルベルの口角を柔らかく上げさせ、そう呟かせるには充分過ぎる、確かな光景だったのだ。


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