Girls' Time
「そんなに時間はかからないかと思いますが、まだ慣れない世界でお疲れでしょう。エリクール二号星に着くまで、ロアさんはこの部屋で休んでいて下さい」
「あ、ありがとうございます!ミラージュさん」
「いえ。他に何か困った事があったら遠慮なく仰って下さいね」
「はい!」
あれからロア達は、フェイト達が乗ってきたというシャトルが地震で再起不能になってしまった事に困り果てていた所に助けに来てくれたミラージュ達のお陰で、再度星の海を泳いでいる所だった。
そんな中、マリアがリーダーを務めている反銀河連邦のクォークというこの組織が所有している艦の一室をミラージュに用意してもらったロアは素直にお礼を言って簡易的なベッドに腰掛ける。
「…それでは私は操縦室に戻り……何かありましたか?」
「………あっ、ごめんなさいジロジロ見て!えっと
その…ミラージュさんって凄い美人だからつい…!」
「あら。ふふ、お世辞でも嬉しいことを言ってくれますね。ありがとうございます」
「お世辞じゃないですよ!…えへへ…それに何か、ミラージュさんってブレアに雰囲気が似てるから…勝手なんですけど、親近感湧いちゃって…あっ、ごめんなさい急にこんな話して!戸惑っちゃいますよね…!」
「…ロアさん…」
ロアを部屋に案内し終えたミラージュはマリア達のいる操縦室に戻ろうとするが、ずっとロアから見られている事を疑問に思ってしまい、思わず振り返って首を傾げてその事を聞いてしまう。
すると、ミラージュに声を掛けられたことで我に返ったらしいロアは恥ずかしいそうに、そして申し訳なさそうに理由を言うと、誤魔化すようにぶんぶんと両手を振ってその事をミラージュが気にしないようにと明るく笑って見せた。
そんなロアの様子を見たミラージュは思わずその名前を呼んでしんみりとしてしまう。
どうしてしんみりとしてしまったのかと言えば、それは既にロアの事情を彼女がマリア達から聞いており、本人からも部屋を案内している道中に粗方の事を耳に入れていたから。
元は自分達と同じ、この世界の住人だとしてもロアにとっては「知らない世界」に近いこの状況は、いくらアルベルが居ると言っても心細いのだろう。
すると…それを頭の中で考えたミラージュは、ゆっくりとロアの隣に腰掛けると、その頭をふわりと優しく撫でてくれる。
「…?ミラージュさん?」
「安心して下さい、ロアさん。ここは確かにまだ貴女にとっては慣れない世界でしょうけど、きっと直ぐに慣れますよ。貴女は元々、私達と「同じ」なんですから」
「…!あはは!そうですよね!ここにはアルベルもいるし、ミラージュさん達もいますし、帰ったらおじいちゃんにも会えるし…!」
「ええ。それに、エリクール二号星についたら私も一緒に着いて行きますので」
「え?!ミラージュさんも一緒に…?!凄い嬉しいけど、だ、大丈夫なんですか…?いや、私が言えることじゃないんですけど…!」
「あら。これでも私、それなりに戦えるんですよ。マリアに戦闘を教えたのは私ですし、クリフと変わらない腕くらいはあります」
「「腕くらい」…へぇ…!ミラージュさんって美人なのに強いんだ…!!凄いなぁ…!!」
「ふふ。それなので、少しの間でしょうが…私で良ければいくらでも甘えて下さい」
「!…えへへ…ありがとうございます…!」
ロアの頭を撫でながら優しく微笑んでくれるミラージュとそんな会話をしたロアは、その事実に驚きはしたものの、ミラージュからの気持ちのこもった言葉と気持ちが嬉しくて、それを素直に受け取って嬉しそうに笑う。
そんなロアを見て安心したミラージュは、こんなに純粋で素直な可愛い妹がいたなんて、ブレアという人は幸せ者だったんだなと心の中で納得していれば、急に扉が開く音が聞こえてそちらへとロアと共に視線を移した。
すると、そこにはニコニコと明るい笑顔をしながら入ってきたソフィアとスフレの姿があり、それに気づいた時には既にロアの膝の上にスフレが勢い良くダイブしてきた所だった。
「うわぁ?!びっくりした!!」
「ロアちゃーん!!えへへ!やっとフェイトくん達の話が終わったから来ちゃった!あたし達とお話しよー!」
「エリクール二号星に着くまで、アルベルさんとの馴れ初めとか聞かせて下さい!というか私、聞きたいです!!」
「ふふ。それなら私は操縦室に戻りますね。アルベルさんにはこの事を私から一言伝えておきますので、後は皆さんでごゆっくり」
「あっ、ミラージュさん!ありがとうございました!」
「「ミラージュさんありがとう!!」」
「いえいえ」
突然現れた2人のお陰で、わーわーと賑やかになった部屋の扉を開けたミラージュが優しく笑いながらアルベルが暫く来ないようにと気を利かせてくれれば、全員はそんなミラージュに揃ってお礼を言う。
すると、そんな3人組を見て再度笑いかけてくれたミラージュが部屋から出ていったと同時に、目をこれでもかとキラキラに輝かせて一斉にロアの両隣に座り直したスフレとソフィアの2人は、その迫力に少し戸惑っているロアを気にすることなくアルベルとの馴れ初めや、FD空間での生活はどんな物だったのかなど、沢山のことをロアに問うて来るのだった。
「夢の中で会うってどんな感覚だったのー?それに、アルベルちゃんと仲良くなるのって難しかったよね?「クソ虫」とか言われなかった?」
「あ、それは言われた!」
「あの再会シーン、私一生忘れません!まるでラブストーリーを見ているようで凄く感動しちゃいましたもん!」
「えへへ…あの時のアルベル、格好良かったなぁ…!ふふ。それはいつもだけど…」
「FD空間でも恋愛した事とかあったんですか?!FD空間の人達ってデートとかはどういう感じだったんですか?やっぱりジェミティ市なのかな?」
「んー、そうなんじゃないかな…私はジェミティ市に連れてってもらったことがないからどんな所なのか分からないけど…まず私はアルベルが初恋の人だよ!」
「えー?!そうなの?!初恋が実ったんだー!!まるで運命だねぇ!!」
「え、運命…?!やだ、照れる…!!」
この艦がエリクール二号星に着くまでの間、少しでもロアを寂しくさせないように。
そして何より、そんなロアとの距離を少しでも縮められるように。
あれは?これは?そんな事は?こんな事は?
そんな風に、沢山の事を楽しそうに聞いてくれて…尚且つ一緒になってきゃぁきゃぁとはしゃいでくれる2人の気遣いと気持ちが嬉しかったロアは心から喜んで沢山の事を時間が許す限り2人に話すのだった。
宣言通りに、ミラージュに部屋に行くなと釘を刺されたアルベルがどうなっているかも知らぬまま。
「…あ。アルベルさん、今暫くはロアさんの部屋には行かないで下さいね」
「…あ?」
「花咲く乙女の時間に男性の介入は野暮ですから」
「?!ふざけるな今すぐ止め、」
「はーいはいはいアルベルさんよ!いつも先陣切って前線に立ってんだ、大人しく休んでた方がいいぜ!お疲れだろ!肩揉んでやるよ!」
「っ、離せクソ虫!!ふざっ、てめぇその腕力を活かすなら今じゃなく戦闘で活かせ!!!」
「…はぁ、全くお前達は騒がしいなぁ…」
「ふふ。本人達も楽しそうなので、良いんじゃないでしょうか?」
「阿呆!!何処をどう見たら楽しそうに見える?!」
「だって凄く輝いて見えるよアルベル。楽しそうだから僕も混ざろうかな」
「斬るぞこのクソ虫!!!!!」
ミラージュから「花咲く乙女の時間」というワードで、今頃ロアが誰と居て、どんな話をしているのか直ぐに分かったアルベルが急いでそれを止めに行こうとした矢先。
後ろから羽交い締めにして心底楽しそうに悪戯な笑みを浮かべたクリフへと振り返ったアルベルはもがきながら怒声を浴びせるが、そこは元々の筋肉量の違いで全くもって抜け出せず…あろう事か近くにいたフェイトにまで面白がられているアルベルはかなりご乱心だ。
それもあって、一度はクリフから抜け出せそうになったアルベルだったのだが、それは次の瞬間…
「この艦内で争い事はいけませんね、マリアに怒られてしまいます」
「?!」
そう、次の瞬間。
なんと、こうなった切っ掛けの言葉を吐いたミラージュによって再度身動きが取れなくなったアルベルは思わず目を見開いて言葉を失ってしまった。
ミラージュのその手はただアルベルを羽交い締めにしているクリフの腕に自分の手を重ねただけなのだが、それだけなのにも関わらずアルベルはカチンコチンに動けなくなってしまったのだ。
見た目からは全く信じられない話だが、その力を身をもって体験したアルベルは素で藻掻くのを諦めてしまった程にとんでもない物だった。
「……え、アルベル?…手伝ったにしろ、相手はミラージュさんだぞ?お前がこんな事でふざけるなんて…」
「……」
「ふふ。クラウストロ人を舐めてはいけませんよ?…あ、言い忘れていました。エリクール二号星に着いたら私も同行します。ここに残ってももう私に出来ることはないと思うので。いいですよね?クリフ」
「ん?おう!お前が居りゃ百人力だしな!頼りにしてるぜ!」
「え?!ミラージュさ、え?!!アルベル、演技じゃないのか?!」
「演技する暇があるならとっくに抜け出しているだろうがこの阿呆!!!」
こうなる前にミラージュがロアに言っていたこと。
それがどうやら本当に彼女の言う通りになったということをロアが知るのは、今頃きゃぁきゃぁと3人ではしゃいでいる「花咲く乙女の時間」が終わった後の話だ。
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