Secret resolution




「ブレアさん、一体これはどういう事なんです?!」


「アンインストーラーを使ったのに、エクスキューショナーが消えないんです!」


「そこなのよ、やられたわ」


「説明してもらおうか」



突然現れた大好きな姉の姿…と言ってもホログラムなのだが、それでも泣きそうになってしまったロアはアルベルの手を握って、フェイト達とブレアの会話をなるべく理解できるように衝動に耐えている。
どうやらブレアの「やられた」という言葉から察するに先程の黒い敵が出現した事は彼女の予想外だった事が伺える。

すると、黙って複雑そうな顔をしているロアをチラリと横目で確認したアルベルは目の前のホログラムのブレアにその事についての説明を求めた。




「ええ。…実はオーナー…あぁ、兄さんの事ね。…彼に先手を打たれていたようなの。私達がアンインストーラーを作動させるのを見越して、セキュリティプログラムを仕掛けておいたのよ。アンインストーラーを起動した場合にのみ発動する、特殊なプログラムをね」




ブレアの説明からするに、どうやらルシファーはブレアが後にアンインストーラーを作るということさえも見越して、先手を打つ形でエクスキューショナーに特殊なプログラムを組み込んでいたらしい。
その話を聞いたロアは、何処までもルシファーの思考が自分とは天と地の差があるのだと痛感してしまった。

こんな事になって…彼に対して怖いと思う気持ちが生まれてしまったとはいえ、それでもやはりブレアと同じく彼が大好きだという気持ちも変わりはしない。
それ故にロアは、この銀河を本気で消し去ろうとしているルシファーの事を考えると今にもそれに目を背けてしまいそうになってしまう。




「なるほど…それが、あの新しいエクスキューショナーってわけなんですね」


「ええ、知ってるの?」


「あぁ、たった今お相手して差し上げたばっかりだ」


「倒せたの?!」


「ええ、苦労はしましたけど」




説明を聞いてすぐに事情を理解出来たフェイトに続く形で、今度はクリフが逆にブレアにこちらの事情を説明すれば、ホログラムのブレアは目を見開いて素直に驚いてみせるものの、暫くして安心したかのようにホッと胸を撫で下ろして見せた。
そしてそのままゆっくりとアルベルの隣にいるロアの方を向くと、柔らかな表情で話掛けてきた。




「そう…それを聞いて安心したわ。ロアがそちらに帰れた以上、少しでも危険な目にはあって欲しくないもの。…でもロア、無理はしないで頂戴ね。アルベルくんも、これからもロアの事をお願いね」


「フン、そんな事言われなくても分かってるさ」


「ブレア……っうん、ありがとう。でも、分かったと思うけど、皆本当に凄い強いから大丈夫だよ!」


「ええ。ふふ。私も身に染みてよく分かったわ」



離れてしまっても尚、自分を心から心配してくれるブレア…そしてそんなブレアからの頼まれ事を、当然だと言いたげに涼しげに頷いたアルベル。
その2人の気持ちを真正面から受け取って、寂しいという気持ちよりも嬉しさの方が勝ったロアは、それがゆるゆると溶けていく感覚を覚えると、同じようにブレアに優しく、いつものように元気に笑いかける。

すると、そんなロアに安心したのだろうブレアは一つ頷いて見せると、再度フェイト達へと向き直って先程の黒い敵について分かっている限りの事を話し出した。



「話を戻すわね。あれを倒したのなら分かると思うけど、彼ら「断罪者」は今までの「執行者」達とは違うわ。サイズは小型化しているけれど、設定されているパラメーターは強大よ。…このままでは銀河の消失は避けられないわ」


「ブレア、それはどうにかならないの…?」


「…大丈夫、実はね。そのセキュリティプログラムはそちらの世界で起動された痕跡があるの。つまりオーナーはエターナルスフィア内にいるということよ」


「ルシファーが?!っ…こっちにいるの…?!」


「そうだとして、だからそれが何だってんだ、悪いがこっちは対処法を聞いてんだぞ」


「私もそれを説明しているつもりよクリフくん。つまり、オーナーを説得するのよ。そして、セキュリティのアンインストールをさせることが出来れば、銀河の消失は避けられるかもしれない」


「ルシファーを、説得……」


「……正直に言うとね、オーナー…兄さんを説得出来る可能性が一番高いのは、貴女よロア。貴女なら、兄さんもまだ話を聞いてくれるかもしれない。…私としてはあまり会わせたくはないけれどね。…きっと兄さんは銀河を消滅させるだけじゃなく、貴女を取り戻す事も考えている筈よ。あの人が大人しく貴女を諦めるつもりはないと思う。貴女がそっちに居ることも気づいているわ」


「っ…」



この世界の創造主という権限でこちらに来ることが可能なルシファーが自分と同じ世界にいるという事に驚いたロアだが、そんな驚きを見事に吹き飛ばしてしまったのは、一つではなく多数の事実をブレアから聞いた所為だった。
自分がこの世界に帰った事は、正直ルシファーに気づかれているとは予想していたロアだが、まだ自分を諦めていないこと、そして何より事を穏便に済ませるならば自分がルシファーを説得するのが一番可能性としては高いこと。

会えるなら会いたい、話もしたい。
ブレアと違って「またね」と挨拶も出来ていないのもそうだが、もう一度真正面から真剣に話が出来ればと思っていた。
でも正直に言えば、それに対してすぐに首を縦に振れないくらいにルシファーの事をロアは「怖い」と思ってしまっている節がある。

ブレアもそれが分かっているのを前提で「提案」として話しているというのはアルベルも分かっていたが、隣にいるロアが思わず自分の腕に控えめにしがみついてしまったのを見てしまえば、黙っていようと思っていてもその口は自然と開いてしまう。




「悪いが、俺は初めからこいつを連れてその親玉の所に行くつもりはない。こいつはカルサアに居るジジイの所に置いていくつもりだ。それなのに話も何も無いだろう」


「……アルベル…でも私…穏便に済むならもう一度ルシファーに…」


「お前の気持ちはある程度理解はしてるがな、駄目なもんは駄目だ。分かったら他の案を考える事だな」




どうやらアルベルはエリクール二号星に着いてすぐにロアをウォルターの元へと置いていくつもりだったらしい。
強さを求めて強敵を探しているアルベルがフェイト達に最後まで着いていくのは当然のように予想していた事だが、気持ちを理解しながらも頑なに自分を置いていくというアルベルの考えが嬉しくもあり複雑にもなったロアは、素直に頷けなければ嫌だと反論することも出来なかった。




「…他の案ね…なら、ロアには悪いけどその時は力ずくでもアンインストールさせればいいんでしょ。ブレア、悪いけどそれを決定事項として話を進めてくれる?」


「…そうね、ごめんなさい。私もそれでいいわ。…オーナーは恐らく自らが作り出した特殊空間に居るはずよ。ただ、そこに行くためには特殊なIDが必要になってくるんだけど…貴方達が見ても多分何に使うか分からないアイテムよ。いわゆるオーパーツと言えばイメージは伝わるかしら…私達がエターナルスフィア内で使うために用意された…まぁデバックツールのようなものよ。使い方を理解したものが使えば、それはエターナルスフィア内で強大な力となるわ」


「それはどんなものなの?」


「形状は様々よ。立方体のクリスタルキューブである場合もあれば、謎の機械だったりする場合もあるし…こればかりは設定した開発者の趣味や配置場所で変わるものだから…」


「それじゃお手上げだぜ。今から形状の分からないものを銀河中探して回るのか?間に合うわけねぇだろうが」


「ちょっと待って。今こっちでデータベースに検索をかけるから……これね。…銀河系に配置されている特殊IDはおおよそ銀色に輝く球体のようだわ。特に特殊な効果はないけれど、保有エネルギーはかなり高く設定されているみたい。データスキャンを行えば確認は出来ると思う。…待って、配置してある場所の検索もかけるから…」




結局…ルシファーをロアに説得させるという案は無しになり、それならば力ずくでも止めるだけだと言ったマリアの言葉で、その場はルシファーの元へと辿り着く方法を探す方向に話が移った。
そしてどうやらルシファーはエターナルスフィアの中でも特殊な空間に居ることが分かっているらしく、そこに行くためには特殊なアイテムが必要らしい。

しかし、それがどんなものか分かったとしても、ルシファーが銀河を消滅させるまでの間にエターナルスフィアの何処にあるかも分からないそれを見つけ出すだなんて事はほぼ不可能に近い話。
思わずそう言ってしまったクリフの言葉を聞いたブレアはそれが分かっている前提で、必死にそのアイテムが何処にあるのか、何処に残っているのか検索を掛けている。



「銀色の…球体…?」


「ええ、そうよ。…あぁ、この星も既に消失してしまっているわ…こっちは…あぁもうっ、ここも!」


「なぁブレア…もしかして大きさはこれくらいか?」


「調度それくらいね。どうして?」


「ブレアさん、エリクール二号星にそれはありませんか?」


「ちょっと待って……っ、あった!あるわよ?!どうして分かったの?!」




カタカタと機械音を高速で鳴らしながら、ここでもないそこでもないと銀河系に残っている特殊IDの場所を割り出しているブレアだったのだが、何処を探してもそれは既に消滅してしまっていたらしく思わず頭を抱えてしまう。
しかし、そんなブレアの苛立ちは暫くして何かを思い出したかのように言ったフェイト達の言葉を切っ掛けにすんなりと溶けてしまい、幸いにもフェイト達の言った通りに特殊IDはエターナルスフィアにまだ現存している事が分かった。

どうやらフェイト達の話を聞く限り、彼らはアルベルのいるアーリグリフとは敵対していたシーハーツの首都であるシランドの城の地下に繋がる場所で特殊ID…彼らの間では「セフィラ」という物を目撃していたらしい。




「そう、そんな偶然があったなんて…!!そのセフィラを使えば特殊空間にアクセスが出来るはずよ」


「分かりました。皆、エリクールに行くぞ!」


「うん!」


「…あ、そうそうソフィア、セフィラを発見したら、貴女が触れてみて。特殊IDは元々私達FD人が使用するために設置されているアイテムなの。だから私達以外には本来の使い方で使えないように設定されているわ。つまり貴女達ではダメということ。けど、今までのケースから考えて、ソフィアなら使えるような気がする。」


「!はい、分かりました!」


「反応したら、思念で私の事を考えて。この地点の事を。恐らくそれで私とコンタクトが取れるようになるはずだから。……それから、アルベルくん、」




一度諦めかけた銀河を消滅を食い止める方法を、ブレアのお陰でまた見つけ出したフェイト達は力強く頷くと、各々がブレアにお礼を言って、ここまで来るために乗ってきたシャトルの方へと体を向けた。
そして、「空間を繋げる」能力の遺伝子操作をされた自分にしか出来ない指示を受け取ったソフィアがフェイト達を追いかけて行ったのを確認したブレアは、まだその場に残っているロアとアルベルに向き直って優しく声を掛ける。




「今度は何だ」


「ロアを…私の可愛い妹を泣かせたら承知しないわよ。戦いを好むのも良いけれど、無事に生きて、その後はずっとロアの傍にいて、沢山幸せにしてあげてね」


「…フン」


「…ブレア…………」


「…「またね」ロア。私は兄さんと違って権限がないから今はそっちに行けないけれど、いつか…いつかきっと、また会えるわ」


「!…うんっ!ブレア、「またね」!…その時は、名前じゃなくて「お姉ちゃん」って呼ぶから!」


「ふふ。それなら余計に絶対会いに行かないとね。……気をつけて、2人共」




思わぬ形ですることになった、二度目の「またね」という約束。
しかしそれは、ただ単に約束のし直しというわけではなく、新たな約束も追加されたものだった。
その約束を胸に秘めて、ブレアの言葉に強く頷いたロアとアルベルはタイムゲートの前に立っているホログラムのブレアに背を向けて、一度も振り返らずに先に行ったフェイト達を追いかける。

大丈夫、だって、今こうして手を引いてくれているアルベルの存在が、何よりも「約束」という力の強さを証明してくれるのだから。
そして…その「約束」のお陰で密かにある事を考えていたロアは、何も言わずに思わず繋いだままのアルベルの手を少しでも強く握り、その後ろ姿を映した青紫の瞳を細めるのだった。




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